はじめに

【記事の要点】
・選択制企業型DCは社会保険料減少に伴う将来の給付額低下に注意が必要だが、制度の活用価値自体は高い
・企業型DCには「投資のきっかけ」「学ぶ機会」「60歳以降の選択肢」というiDeCoにはない3つのメリットがある
・損得勘定で判断せず、自社の制度内容を確認したうえで自身のライフプランに合わせた資産形成を行うことが大切

前回の記事で、給与の一部を企業型DCの掛金として拠出する「選択制企業型DC」の掛金増額に伴う注意点を解説させていただきました。とはいえ、会社の制度には活用すべき理由がありますから、今回は選択制を含む企業型DCの活用メリットをお伝えします。

前回記事:企業型DCの「掛金増額」で損することも? 社会保険給付や年金が減る意外な盲点


知っておきたい「選択制企業型DC」に潜む社会保険給付への影響

企業型確定拠出年金(企業型DC)、特に給与の一部を企業型DCの掛金に振り替える「選択制企業型DC(給与減額型)」の「掛金増額」時の注意点を前回解説しました。

事業主が掛金を拠出するタイプの企業型DCではなく、自らの給与の一部を切り出して掛金とする「選択制企業型DC」では掛金を拠出するとその分社会保険料の算定対象となる「給与額」が減少するため、社会保険料の負担が軽くなることがあります。

これは資産形成をしつつ手取りも増やすことができると歓迎される点でもありますが、一方掛金を増やすことで標準報酬月額が下がれば、将来の老齢厚生年金や、病気やけがで働けなくなったときの傷病手当金など、社会保険の給付額も減少する可能性があるということを指摘させていただきました。

つまり、掛金を増やせば増やすほど得だと単純にいえることではなく、制度の仕組みを理解したうえで、慎重に判断することが大切だということです。

企業型DCを上手に活用すべき理由

ただ、ここで誤解していただきたくないのは、「企業型DCは注意が必要だから、利用しないほうがいい」ということではありません。

私はむしろ、会社に企業型DCがあるのであれば、仮にそれが『選択制』であったとしても、その制度を上手に活用してほしいと思っています。なぜなら、企業型DCには、個人でiDeCoなどを始めるのとは違ったメリットが3つあるからです。

メリット1. 口座開設の手間なし。会社が整えてくれる「投資を始める環境」

一つ目は、「投資を始めるきっかけ」を会社が用意してくれることです。

「老後のために資産運用を始めたほうがいいとは思っている。でも、何から始めたらいいのか分からない」こういう人は決して少なくありません。

NISAが広く知られるようになり、投資信託による積立投資を始める人も増えました。しかしNISAはいつでも解約・換金できるという自由度があるため、老後まで使わずに運用を続けるには、自分自身で目的意識をしっかり持つ必要があります。

投資を始める人が増えた一方で、証券会社に口座を開設し、商品を選び、積立額を決めるというところまで自分でやろうとすると、どうしてもハードルを感じてしまう人もいます。企業型DCなら、会社が制度を導入し、加入手続きや運用商品の選択肢などを整えてくれています。自分で一から仕組みを調べて、口座を開設する必要はありません。

もちろん、運用するのは自分自身ですから、何も考えずに加入すればよいということではありません。しかし、「投資を始めるための環境が会社によって用意されている」ということは、初心者にとって非常に大きな意味があります。

これまで資産運用をしたことがない人にとっては、最初から大きな金額を投資する必要はありません。まずは無理のない金額から始め、運用しながら少しずつ仕組みを理解していくのが賢明です。企業型DCは、そんな「投資のスターター」として活用することもできます。

分からないことがあれば、会社の担当部署に聞いたり、必要に応じて運営管理機関につないでもらったりできるなど、利便性も高いでしょう。会社によっては、業務の中で制度説明を受けたり、問い合わせたりできる環境が整っていることもあります。

「投資を始めたいけれど、自分で全部準備するのは大変」。そんな人にとって、会社の制度を入口にすることには大きなメリットがあるのです。

メリット2. 情報過多の時代だからこそ価値がある「投資を学ぶ機会」

二つ目は、「投資について学ぶ機会」が用意されていることです。

企業型DCでは、加入者が自ら運用商品を選び、運用結果が将来の給付額に影響します。そのため、事業主には加入者に対して投資教育を行うことが求められています。厚生労働省も、制度の内容や運用商品の仕組み、資産運用の基礎知識、老後の生活設計などについて、加入者が理解できるよう投資教育を行うことを示しています。

実際には、企業によって投資教育の内容や頻度には差があります。入社時に一度説明を受けるだけという会社もあれば、研修会や動画などを使って継続的に学ぶ機会を設けている会社もあるでしょう。それでも、会社が制度として「学ぶ機会」を用意してくれることには大きな価値があります。

今はインターネットで検索すれば、投資に関する情報はいくらでも出てきます。SNSを見ても、「この商品を買えばいい」「これだけやれば大丈夫」といった情報が次々に目に入ります。情報が少ないことよりも、情報が多すぎて何を信じればいいのか分からないことのほうが、初心者にとっては大きな問題になっているのではないでしょうか。

その点、企業型DCの投資教育は、特定の商品を購入させることを目的とするものではなく、制度の仕組みやリスクとリターン、分散投資など、資産運用の基本を学ぶことが中心です。

もちろん、会社が提供する教育だからといって、それがすべてであるかのように鵜呑みにしてよいわけではありません。それでも、玉石混交の情報を自分一人で探すより、「まずはここから学ぶ」という入口が用意されていることは、大きなメリットです。

企業型DCへの加入をきっかけに、投資について少しずつ勉強してみるという経験は、NISAを利用するときにも役立つほか、自分の家計や老後資金について考えるきっかけにもなります。

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