はじめに
「NISAで投資を始めるなら、まずはオルカン」。そんな声を見聞きする機会が増えました。
「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」通称「オルカン」は、1本で世界中の株式に分散投資できるインデックスファンドです。投資信託ランキングでも上位の常連で、「よくわからないけど、皆がおすすめするからオルカン」という人は少なくないでしょう。
でも、本当にそれでいいのでしょうか? オルカン生みの親である代田秀雄さんに、初心者にオルカンが向いている理由、適切な付き合い方について聞いてみました。

三菱 UFJ アセットマネジメント前常務。シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ代表。
1985 年に三菱信託銀行(現・三菱 UFJ 信託銀行)に入社。支店にて個人財務相談や法人融資などを担当した後、年金資金や投資信託の運用業務に約 30 年にわたり携わる。三菱 UFJ 投信で商品企画部長などを歴任し、2019年より三菱 UFJ 国際投信常務取締役として商品・マーケティング部門等を所管。インデックス投資を通じて、資産形成や NISA の普及に貢献した。2025年4月、三菱 UFJ アセットマネジメント常務取締役を退任し、特別業務顧問に就任するとともに、シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズを設立。中央大学法学部兼任講師(国際金融論)。人気投資信託シリーズ「eMAXIS Slim」、なかでも「オルカン」の生みの親として、メディアでたびたび取り上げられている。
「とりあえずオルカン」で買っても大丈夫?
──なぜ、オルカンは初心者向きだと言われるのでしょうか?
投資の考え方は大きく分けて2つあります。値上がりする銘柄を予測し、市場平均を上回るリターンを目指す「アクティブ投資」と、市場全体の値動きに連動することを目指す「パッシブ投資」です。言い換えれば、前者は「勝者を探す投資」であり、後者は「市場全体の成長に乗る投資」です。
オルカンは後者なので、考え方がとてもシンプルです。世界中の株式に分散投資して、あとは市場全体の成長を待つだけ。自分で銘柄を選んだり、売買のタイミングを計ったりする必要はありません。このわかりやすさが、初心者にとって取り組みやすさにつながっているのでしょう。
──「とりあえずオルカンを買っておけば間違いない」という空気も感じます。
オルカンの中身を理解したうえでそう思うのであればいいのですが、「オルカンなら下がらない」と思ってしまうのは危険ですね。
オルカンはあくまで株式に投資する商品なので、資産形成の途中で大きく値下がりすることもあるでしょう。リーマン・ショックの時には、世界株式市場全体で半分以上も下落しましたから。時には大きく下がる可能性もある商品だと理解したうえで、暴落時も慌てて売らず、長期で持ち続けること。この前提は理解しておいてほしいですね。
──オルカンは純資産総額がかなり大きくなっています。ファンドが巨大になると、かえって運用しにくくなることはありませんか?
むしろ、長期で低コスト運用を続けるためにはある程度の規模が必要です。特にインデックスファンドは運用やシステムなど固定的なコストの割合が高く、ファンドが大きくなるほど規模の経済が働きやすい。運用効率が良くなり、コストの引き下げ余地も広がります。
投資家はコストの低さに注目しがちですが、長期投資では「そのファンドが長く運用され続けるか」という視点も欠かせません。そういう意味では、インデックスファンドにおいて規模が大きいことは長期運用の可能性を高めるため、デメリットではなくメリットと言えます。
オルカン1本だけで本当にいい?
──初心者向きとはいえ、投資対象はオルカン1本だけでいいのでしょうか? 他の商品にも分散したほうが安心な気もします
オルカンは1本の投資信託ですが、その中には世界中の企業の株式が入っています。だから、「1本しか持っていない=分散できていない」ということではありません。
むしろ、複数の投資信託を持った結果、同じような銘柄を重複して持っていることもあります。大切なのは投資信託の本数ではなく、何に投資しているかです。
──とはいえ、オルカンは株式100%です。債券など、値動きの異なる資産に分散するのはどうでしょうか?
長期の資産形成をするのであれば、NISAのなかに債券をたくさん組み入れる必要はないと思っています。そもそもNISAの大きなメリットは、運用によって得られた利益が非課税になることです。であれば、長期で相対的に高いリターンが期待できる株式をNISAで持つことには合理性があります。
債券を持つかどうかはNISA口座の中ではなく、資産全体で考えるべきでしょう。長期間使う予定のない資金は株式を中心にNISAで運用し、生活に必要なお金や近い将来使うお金は、預貯金などの安全資産として別に確保する。そのうえで値動きを抑えたい場合に、債券を持つことも検討してみては。
十分に安全資産を確保できているのであれば、NISAは株式を中心に考えていいと思っています。