「コインチェックは本当に初歩的な問題。まったくナンセンス。最も腹が立つのは、システムにお金をかけるべきところを、CMにばかりお金をかけていたこと。こういう輩はカス中のカスだ」

歯に衣着せぬ豪快な発言で知られるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝社長ですが、この日はいつになく強い言葉が並びました。仮想通貨取引所「コインチェック」から約580億円相当の仮想通貨が不正に流出した問題に、よほど腹を据えかねていたのでしょう。さらに、まくし立てます。

「私には彼らが4百数十億円も返せるとは思えない。そんなにボロ儲けしていたのか。そうであれば、ちゃんと税金は納めていたのか。今どき現金でそれだけの額を払える会社は少ない。金融庁は徹底的に審査しないといけない」

ここまで厳しくコインチェックを糾弾する北尾社長。その発言の裏側には、SBIが描く壮大な野望がありました。


北尾社長、2時間強の独演会

1月30日に開かれた、SBIHDの2017年度第3四半期(4~12月期)決算説明会。コインチェック騒動が世間の耳目を集めていたからでしょうか、いつもの倍近い出席者が集まりました。

同社の決算説明会では毎回、北尾社長の独演会が1時間半近くにわたって繰り広げられるのが定番となっていますが、この日は質疑応答も含めて2時間強に及びました。しかも決算内容そのものの説明は50分程度。残りは今後の事業展開の説明に費やされました。

その説明の終盤に登場したのが、SBIHDが中長期で志向する事業ビジョン、3つの金融生態系の有機的な複合です。

現在、同社の金融サービス事業はSBI証券、住信SBIネット銀行、そしてSBI損保を核とした保険関連事業という3つの分野で成り立っています。ここに出資先であるフィンテックベンチャーや地域金融機関を巻き込みながら、さながら1つの“生態系”を作っています。

この既存の金融生態系に加えて、仮想通貨、モバイルファイナンスという2つの生態系を作り上げ、これら3つを接続させることで、相互送客やサービスの連携、KYC(顧客確認)情報の一元管理を進めようという構想を描いているのです。

「世界一安全な取引所を作る」

このうち、仮想通貨生態系については、昨年9月に仮想通貨交換業の登録を済ませており、今年1月からは米リップルの仮想通貨「XRP」の試験販売を一部の顧客に限定して開始しています。北尾社長は「世界一安全で、世界最大の取引所を作る」と意気込みます。

そのための施策として、中国で仮想通貨取引所を運営するHuobiグループと提携し、オペレーションのノウハウなどを吸収。それと同時に、ウォレット(仮想通貨の保管場所)の安全性を高めるため、英nChainなど海外企業との提携も進めています。

「ウチはマイナーな通貨は扱いません。ビットコイン、ビットコインキャッシュ、XRP、イーサリアム、あとは自社で発行したトークンに限って取り扱います。次々に世界中で安全性に関する問題が起きている。SBI以外にどこが対応できるのか」(北尾社長)

さらに、傘下のモーニングスターでICO(新規仮想通貨公開)の格付け業務や仮想通貨のポータルサイト運営を始めているほか、昨年8月に設立したSBI Cryptoではビットコインキャッシュのマイニング(採掘)を進めています。豊富な人材と資金力で“面”を取りに行く戦略です。

ケータイ向け金融事業にも食指

一方、モバイルファイナンスの分野では、世界初のモバイル専業銀行である米Movenに出資するとともに、合弁会社を設立することでも合意。モバイルに特化した銀行アプリを開発し、SBIの提携先である複数の地域金融機関向けにカスタマイズして提供していきます。

加えて、モバイルバンキング送金サービス「PayKey」を提供しているイスラエルのベンチャーとも合弁会社を設立する予定です。こちらでは、国内の金融機関を対象にPayKeyの導入を進めるとともに、アジア全域での展開も見据えています。

昨年末時点で、SBI証券におけるスマートフォン経由の約定件数の割合は31.0%まで上昇しています(2014年3月末は9.9%)。住信SBIネット銀行に至っては、スマホ経由のアクセスが2014年3月末の21.5%から2017年12月末には51.4%まで高まっています。

こうした動きをとらえて、既存事業でのノウハウを生かし、短期間でモバイルサービスを拡充していくと同時に、従来のチャネルではリーチできていなかった客層を開拓。将来的には、モバイル向けの仮想通貨サービスも提供していく計画です。

生態系に欠かせない2つのファンド

これら2つの新たな生態系を作り上げるにあたって戦略のドライバーになると考えられるのが、1月に相次いで発足させた2つのファンドです。

1つは、AI(人工知能)やブロックチェーンを主な投資対象とする「SBI AI & Blockchainファンド」(SBI A&Bファンド)。当初は200億円規模で投資活動を始め、最終的には500億円程度まで出資総額を拡大する予定です。

もう1つが、地域金融機関を対象に投資する「SBI地域銀行価値創造ファンド」。専門家のいる適格機関投資家を勧誘対象にした私募の投資信託で、まずは100億円規模でスタート。将来的には1,000億円規模のファンドサイズを見込んでいます。

「地銀のPBR(株価純資産倍率)は0.5倍前後と超割安。マイナス金利や地方経済の縮小、単独でフィンテックを導入できないなど、さまざまな要因で割安になっています。その中でも有望な地銀をファンドで買っていき、収益銀行に変えていきます」(北尾社長)

出資については、現金に加えて、投資対象となる地銀の株式の現物出資も可能にしています。SBIグループが出資するフィンテックベンチャーの技術を、ファンドが出資した地銀に導入し、企業価値を向上させる考えです。

コインチェックに怒り心頭の理由

整理すると、仮想通貨とモバイルファイナンスという将来有望な2つの分野で新たな生態系を作り、その中にSBI A&Bファンドなどから出資したフィンテック企業の技術を導入。その一方で、地銀価値創造ファンドで出資した地銀を新技術の導出先、あるいは、自社サービスの潜在顧客にアプローチするための窓口として活用し、生態系の規模を拡大していく。それが北尾社長の描く、SBIの将来ビジョンというわけです。

このビジョンを推進していこうという矢先に起きたのが、今回の不正流出騒動でした。それゆえ、北尾社長はコインチェックの経営陣に対し、怒り心頭だったと考えられます。

「ブロックチェーン自体はまったく問題がない。足元はバブルかもしれないが、実需ができれば価格のボラティリティも下がる。仮想通貨は新しい革命的なアイデアで、世界通貨という側面も持ち合わせている。そういうものを規制で雁字搦めにして潰したくない」

ネット証券やネット銀行の世界で圧倒的な存在感を放つSBIグループが、仮想通貨とモバイルファイナンスという新たな分野でも同様の飛躍を遂げられるか。それは、コインチェック騒動を他山の石として、どれだけセキュリティを高められるかにかかってきそうです。

(写真:ロイター/アフロ)