はじめに
1月31日、中国の大手携帯電話ブランド「OPPO(オッポ)」の日本進出と、最新機種である「R11s」の発売が予告されました。ただOPPOといわれても、そんな名前は初めて聞いたという人が大半でしょう。しかし日本でこそ存在感が薄いものの、世界的に見ると中国ブランドの存在感はすでに大きいものになっています。
日本でもすでにいくつかの端末を発売している華為技術(ファーウェイ)のほか、小米科技(シャオミ)、OPPOを加えた3社は、出荷台数で世界トップ5に食い込み、米アップルや韓国のサムスン電子に迫る勢いです。アジアに限れば、トップ5のうち、サムスンを除いた4社は中国ブランドになっています(2017年7~9月期、Strategy Analytics調べ)。
現在の中国には121の携帯ブランドがあるとされており、国内市場は世界一厳しい競争にさらされています。その勝者が上記の3社だといえるわけですが、実はその影で、多くの個性的なブランドがしのぎを削っています。
この3社はどのようなところから生まれ、大きくなったのか。そして、気を抜いたらすぐに巨人に踏み潰されてしまう状況の下で、新興メーカーがどう戦い、顧客をつかみ、生き残っているのか。前後編の2回に分けて、中国のケータイ市場の最前線をご紹介します。
コピー天国「山寨」時代が土壌になった
中国では、2000年代前半まで携帯電話の製造は許可制でした。そのため、中国の携帯電話といえば長い間、話題の中心は「山寨(シャンジャイ)」と呼ばれる無許可製造、多くは有名ブランドのコピー携帯だったといっても過言ではないでしょう。
iPhone発売当日に、iOSではなくAndroidで動くiPhoneのようなものが売られていたり、SIMカードが2枚どころか10枚入るとか、マイク型のカラオケ機能付きなどなど……。そういう商品としての質は怪しいけれど、バカバカしくて夢のある製品は男の子のガジェット心をくすぐるものでした。
しかし時は流れてここ数年、こうした怪しいものは表面上、ほぼ見られなくなりました。権利意識の向上・法律の厳格化によるあからさまなコピーの撲滅、所得・消費水準の向上、コピー品を使っていてはメンツがないという考え方など、理由は単純ではありません。
総じてこうした“ヘンなもの”は虫の息で、たとえば深圳の電脳市場に行っても、目につくのは質が低いだけのタブレットのコピー品や海外バージョンのiPhone程度です。
もちろん、コピー品はほめられたものではありません。ですが個人的には、この時代に現れた時には理屈や効率もあまり考慮しないようなユニークな商品が、現在の業界全体の強さ・多様性につながっているのではないか、と考えています。
国内独自ブランドの揺籃期
こうしたコピー市場の隆盛からしばらく経ち、携帯電話はスマートフォンの時代を迎えます。スマホはデザイン面では同質化する一方、構造や回路設計などが高度化し、素人にはゼロからは簡単に作れなくなり、小規模なコピー品メーカーは生き残ることが難しくなります。
前述のファーウェイやOPPOはスマホ時代が始まるより前に携帯電話製造事業に参入していました。ファーウェイはもともと企業向け通信機器の製造、OPPOの母体である步步高(ブーブーガオ)は計算機や電子辞書などを製造していました。
彼らは他の製品で培った基礎開発力や人材、資金を有しており、普通の中小メーカーよりは随分恵まれた立場ではありました。しかしそれでも、iPhoneなどとのデザイン・機能の差は依然大きく、私の周りでは「ファーウェイは高いだけのダサいおじさんの携帯」「OPPOは田舎者の携帯」というイメージでした。
コスト削減とマーケ手法で急成長したシャオミ
この「ダサい国産」イメージを転換させたのが、前述の2社に比べれば比較的遅れてやってきたブランド、シャオミです。
同社は当初、自社工場や実店舗を持たないなど、生産から販売まで徹底したローコスト化と低価格販売、そして若きギーク(意識高い系)御用達というイメージ戦略とネットの口コミをうまく利用し、急成長を遂げました。月収並みのiPhoneには手が届かなくても、ちょっとかっこよくて他と違う携帯を使いたい都市部の若者から、圧倒的に支持されたのです。
その独自のマーケティング手法をまとめた内部向けの教本「参与感」は、後に一般向けにも販売され、マーケティング担当者必読の本とされました。売れる時にあえて売らず飢餓感を与え、後のより大きな売り上げにつなげるというシャオミの手法は、とかく物量での正面突破が多かった中国企業の「売り方の新世代」到来を感じさせるものでした。
シャオミの内部向けマーケティング教本『参与感』。豚が飛んでいるのは、雷軍CEOの「時代の風に乗れば、豚だって空を飛ぶことができる」という発言から
破竹の勢いだったシャオミも2015年ごろから失速が始まります。今までなかった実店舗での販売やラインナップ拡充など、急増する需要に応じようとした施策が裏目に出て、ブランドとしての独自性が失われ、移り気な若者たちから愛想を尽かされてしまったことが原因といわれています。
しかし、シェアで見れば依然として大きいことに加え、2017年はインドをはじめとした海外や中国で投入した「MIX」のヒットによって勢いを取り戻しつつあります。最近では上場の噂も出始めるなど、2018年はさらに成長する兆しも見せています。