先週末、「日銀・黒田総裁が続投へ」というニュースを各メディアが一斉に報じました。安倍晋三首相が、4月8日に任期満了となる日本銀行の黒田東彦総裁を続投させる方針を固め、月内にも国会に提示する、という内容でした。

黒田総裁の続投というニュースはメインシナリオでしたので、大きなサプライズはありませんでした。しかし、さまざまな噂が飛び交っていた中から1つのシナリオに絞られたとなれば、影響は各方面に広がっていきそうです。

続投の背景には何があり、今後の経済・市場にどんな影響がありそうなのでしょうか。そして、私たちはどのように備えればいいのでしょうか。


なぜこのタイミングだったのか

先週の国内外の市場は大荒れでした。米国のダウ平均株価は2月2日に前日比665ドル(▲2.5%)、週明けの5日には過去最大の下げ幅となる1175ドル(▲4.6%)の急落を記録しました。米国市場の下落を受けて、日経平均株価も5日に592円(▲2.5%)、6日は1071円(▲4.7%)と同じように急落しました。

さらに、米国景気の先行き不透明感から“安全資産”とされる日本円が買われ、8日には5ヵ月ぶりとなる1ドル=108円台まで円高が進みました。こうした市場が大きく動いたタイミングで黒田総裁の続投が報道されたのは、決して偶然ではないでしょう。

2013年の就任以来、サプライズの政策変更で何度も株高・円安を演出してきた黒田総裁の続投をリークすることで、海外発の株安・円高の流れを変えたいと政府・安倍首相が考えたとしても、不思議ではありません。

逆に言えば、それだけ安倍首相の黒田総裁に対する信頼が厚いということかもしれません。

実は、今後を見渡すと、今年9月の自民党の総裁選挙では、安倍氏は3期目を目指すことになります。また、来年10月には、一度延期した10%への消費税率引き上げのタイミングがやってきます。

安倍首相にとっては、これから次々と訪れる試練に臨んで、アベノミクスの最大の成果である円安・株高を演出してきた立役者、黒田総裁の「神通力」にまだまだ頼りたいと考えたのではないでしょうか。

日銀事務方にとってもベストシナリオ

もちろん、安倍首相の意向だけではないでしょう。

すでに73歳になった黒田総裁ですが、海外出張の多い日銀総裁の激務も精力的にこなしており、今のところ、健康面に不安はみられません。また、記者会見の受け答えなどからは、1期目の成果を政府・与党に高く評価され、自信を深めている様子がうかがえます。

さらに、欧米の金融当局が金融の引き締め・金利の引き上げに向かう局面の中で、日本もそう遠くない時期に金融政策の正常化を求められるという難しい状況を、最もうまく舵取りができるのは自分だ、という自負もあるものと思われます。

奇しくも、米FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル新議長が5日に就任したタイミングで市場が不安定化するという状況に関しても、「財務省の財務官時代からグローバルな金融市場をつぶさに見てきた自分がやるべきことはまだまだ多い」という責任感もあるかもしれません。

黒田総裁が続投することは、日銀の事務方にとっても、ほぼベストシナリオといえます。これまで5年間の総裁としての安定感と安倍政権との信頼感は、日銀にとって何よりも心強い武器でしょう。

また、副総裁人事でも、これまで金融政策の中枢を担ってきた日銀プロパーの本命中の本命、雨宮正佳理事の昇格の可能性が高まったといわれています。日銀生え抜きのエースが、黒田総裁の「次」も狙える地位に就くということで、日銀にとっても大いに歓迎すべき続投報道になったものと思われます。

(写真:ロイター/アフロ)