はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は伊藤英佑氏がお答えします。

現在、妻の父親名義の家屋に2世帯で暮らしています。私たち子世帯は2人目の計画もあり、スペースがかなり手狭なため、同じ土地に家の建て替えを検討しています。妻の両親も私たち夫婦と暮らすことに賛成なのですが、妻の兄夫婦も両親と同居の希望を持っています。
妻の両親は土地家屋以外に目ぼしい財産がないので、建て替えの費用は全額私達が出す予定です。本来であれば土地もまとめて買いたいのですが、実勢価格だと6000万程度するため、できれば将来的に相続の特例を使って税負担を抑えて相続したいと考えています。このような場合、将来的に兄夫婦と相続等でもめないためには、どのような準備をすれば宜しいでしょうか?また、もっと他にいいやり方があれば教えてください。
(38歳 既婚・子供1人 男性)


伊藤: ご質問ありがとうございます。

まずは同居する家族を決めること

奥様のご両親の土地に自身の資金で家を建て、2世帯住宅をご検討されているようですね。また、奥様の兄夫婦もご両親との同居を希望されているとのことですね。

まずは、ご相談者のご家族か奥様の兄弟夫婦のどちらが奥様のご両親と同居するか、先に3世帯で話し合いをされて、どうするかを決められることが先決と思います。一方的に物事を進めたりすると、将来のいざこざの要因になりやすくなります。

人によっては、結論についての賛否よりも、「一方的に決められた」ということで不信感が起こり、そういう心のしこりの蓄積が将来の相続時などの揉めごとの原因になったりすることがなきしもあらずですので、きちんとお互いの考えを確認され、納得しながら進められることがよいと思います。

その際に、二世帯住宅建て替えをするかどうか、その資金をどうするかも合わせて話し合いをされるとよいでしょう。兄夫婦が建物の資金負担をどうする意向かが論点かもしれません。

ご両親も、ご相談者である子どもの旦那が資金を出して二世帯住宅に住むのでしたら、ご相談者の夫婦との同居に関してより支持をしてくれるかもしれません。

相続税についての心配は少ない

相続財産となる土地は、基本的には「路線価×面積」による金額が相続税を計算するときの評価額になります(土地の形状等による補正計算もありますがここでは省略します)。一般的には路線価額は実勢価格の80%程度と言われています。実勢価格が6000万円の土地だけですと、およそ4800万円程度が相続税評価額となる可能性が高いでしょう。

奥様のご両親がともにお亡くなりになった場合には、相続財産である土地は、ご相談者の奥様と奥様の兄の2人で1/2ずつの法定相続件を持つことになります。

相続税は、「3000万円+法定相続人の人数×600万円の基礎控除」というものの金額を超えた部分が課税されます。ご相談者の場合は、基礎控除が4200万になりますので、預貯金をいくらお持ちかにもよりますが、土地の他に特に財産がなければ、基礎控除を超えた金額の1000万円までは10%の税率です。4800万円は4200万円を600万円超過になりますから60万円の相続税額が想定されますが、二世帯住宅で同居している土地を奥様が相続すれば、以下の通り小規模宅地等の特例が使えますので、税金の心配はいりません。

親の土地に家を建てるときには、相続税の観点からは、「小規模宅地等の特例」を適用できるかどうかが一つの大きな検討事項になります。相続税の小規模宅地等の特例とは、被相続人が居住していた土地について相続税評価額を減額できる制度です。

親の土地を無償で借りて家を建てた場合は、被相続人である親と親族が同居していたことなどを条件に小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等の特例)が適用できます。特定居住用宅地等の特例では、敷地のうち330㎡までの部分の相続税評価額が80%減額できます。

ご相談者が家を建てて奥様が土地をすべて相続する分には、ご相談者家族に相続税が課税されることはなさそうです。ただ、相続財産が基礎控除を超え、特定居住用宅地等の特例で相続税額がゼロでも相続税の申告書提出は必要ですのでお気をつけください。

路線価については国税庁のサイト等で調べることもできますし、さまざまな情報でお住まいの地域の路線価の価格が分かりますので、小規模宅地等の特例の適用要件と合わせ、一度お調べになってみるとよいでしょう。

相続財産の分け方を家族で話し合いを

ご相談者の奥様が土地をすべて相続するとした場合、奥様の兄夫婦へは土地の財産額の半分を現金で支払いし、土地は相続する(代償分割)、というのが一番フェアな解決方法であると言えるでしょう。

土地の財産額の半分をどうしても払えないと、共有ということになるかもしれませんが、将来、家の建て替えや買い換えによる引っ越し等を考えた際に共有者と合意が必要になりますし、奥様の兄夫婦にとっては使用しないわけですから財産的価値を感じにくく現金化を希望されるかもしれません。

また、土地の財産額を路線価評価か実勢価格を基準にして算定するかなど、奥様の兄夫婦と利害が対立する要素もあります。相談者様の年齢から推察しますと、相続は10年後・20年後とかなり先のことかと思いますが、奥様のご両親も健在なうちに、3家族できちんとした話し合いが大事ということになります。子が揉めることを望む親はいませんから、ご両親の希望等もお互い聞き入れながら話し合うのがよいのではないかと思います。

場合によっては、奥様のご両親の将来の介護等を約束する代わりに、奥様の兄夫婦も柔軟な姿勢を見せてくれたりすることもあるかもしれません。

住宅ローン控除の活用もお忘れなく

親の土地に家を建てる場合でも住宅ローンを利用すれば、所得税の住宅ローン控除が適用できます。

住宅ローン控除は、10年間にわたって所得税の税額から毎年末のローン残高の1%相当額が引かれる制度です。所得税から引ききれない金額は翌年の住民税から引かれます。床面積が50㎡以上あることや、借入期間が10年以上あることが主な要件となっています。

家を建てる前に住宅ローン控除の適用が当てはまるかどうか要件を確認しておくとよいでしょう。

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