はじめに

近年、中国政府のハイテク推進の流れが顕著になっています。数年前までは「世界の工場」としての存在感が際立っていましたが、成長率の鈍化や人件費の上昇などによって、これまでの成長モデルが通用しなくなっています。

そのような状況を打開すべく、中国政府の打ち出した政策が「中国製造2025」です。ハイテク大国として、新たな成長モデルを模索し始めている中国の直近の変化を探ってみましょう。


2049年「世界最大の製造強国」への道

中国製造2025とは、中国を世界の製造強国にしようという長期プロジェクトで、2025年までに中国を「世界の製造強国」にすることを目標としています。最終的には、中華人民共和国建国100周年を迎える2049年に、中国を「世界最大の製造強国」にしようという壮大な計画です。

もともと2015年に発表された長期計画ですが、2017年12月に実施された「中央経済工作会議」において、今後の長期目標としてあらためて強調されました。

「製造強国」を作り上げるために、中国は国を挙げて支援を行っています。以前の中国企業では、「他社の模倣」「他企業、他部門の買収」によって技術力を高めるというケースが目立っていましたが、直近では自社で技術力をつけ始めています。

世界に波及する中国の電気自動車動向

世界知的所有権機関(WIPO)の国別国際特許出願件数統計によると、2016年の年間出願件数では、1位が米国、2位が日本、3位が中国という順になっています(下図)。近年は他国に比べて中国の伸びが際立っており、中国企業の本気度がうかがえます。ここ数年のうちに、中国は国際特許出願の部門で世界2位の大国に躍進すると推測されます。

ハイテク重視の動きを象徴している政策が、電気自動車の推進です。今や中国の自動車生産台数は世界1位ですが、その中国が電気自動車振興に向けて本腰を入れ始めており、2017年4月、6月、9月と相次いで新エネルギー車(電気自動車を含む)に関する政策を発表しました。

中国汽車工業協会によると、2017年時点の中国の新エネルギー車生産台数は約80万台ですが、この台数を2025年には700万台まで増加させる方針です(下図)。また、中国の新エネルギー車重視に向けた方針転換は、他の国へも波及しています。

ドイツは2030年までに、フランスは2040年までに、ガソリン、ディーゼル車の販売を禁止する方針です。世界的な環境への意識の高まりも、政策を後押ししている1つの要因になっているといえます。今後、各国、主要自動車メーカーによる電気自動車推進の流れは一層強まるとみてよいでしょう。

もう1つの柱がロボット産業振興

そのほかに注目したいのが、世界的ロボット市場の拡大と中国メーカーの存在感の高まりです。

以前であれば、中国などの新興国では、安い人件費と豊富な労働力が最大のアピールポイントでしたが、近年は人件費の上昇が急ピッチで、人件費の面での優位性が失われつつあります。この状況を打開する手段の1つとして、中国が目をつけたのがロボットです。

実際、先述した中国製造2025政策の中では10大重点産業の1つとして、ロボット産業が挙げられています。産業高度化、IT技術の向上の点で、ロボット産業振興は中国の目指す方向性に合致している政策といえます。

このように、中国政府が「製造強国を目指す」という大目標に向かって本格的に進み始めたことで、中国地場の企業も多く育ちつつあります。ハイテク推進の大前提が変わることは考えにくく、今後、有力ハイテク企業を多く持つ深圳A株市場の中から大化け企業が出てくると期待できそうです。

(文:アイザワ証券 投資リサーチセンター 明松真一郎 写真:ロイター/アフロ)

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