はじめに
2月から始まった世界的な株安は、簡単には終わりそうにありません。3月1日の日経平均株価は、前日比343円安の2万1,724円と大きく下げました。
2月27日に、米FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長が議会証言で、「個人的には景気見通しは力強さを増してきた」と発言したことが、戻り歩調にあったNYダウ平均株価、日経平均が再び売られるきっかけとなりました。
米国の景気が良いという話は、普通は、株にプラス材料です。しかし、今回は通常とは逆の影響を株式市場に及ぼしました。その背景には、どんな事情があるのでしょうか。
パウエル発言をどう受け止めたか
日米の株価急落のきっかけとなったパウエル発言。市場は「米国の景気が過熱し、利上げピッチが早まる懸念が強まった」と解釈したため、戻り歩調にあったNYダウが急反落し、続いて外国人が日本株も売ってきた、と考えられます。
米国の景気が過熱期に入ることが懸念されている今、「景気が強い」という話は、株式市場にとって単純なプラス材料とは受け止められなくなっています。今回は、米国の利上げペースを決めるFRBの議長発言だっただけに、株式市場は即座にネガティブに反応しました。
一般的に、景気・金利・株価には下表のような関係があります。すべての景気循環で成り立つわけではありませんが、株式運用を考えるうえで、頭に置いておく必要があります。
日本も米国も、昨年から景気拡大「中期」に入っています。日本は拡大中期でも、インフレ率は低く、日本銀行が長期金利をゼロに押さえ込んでいます。ところが、米国はやや事情が異なります。
日本と異なる米国の事情とは?
米国は、金融緩和の出口に向かって、FRBが着々と利上げを進めています。昨年は3回の利上げが実施されました。今年は、さらに3回の利上げが見込まれています。
今、議論になっているのは、いつ米景気が拡大中期から過熱期に入るかです。過熱期では、景気は好調でも金利上昇によって株価は下がります。さらに先読みすると、景気過熱の後には景気後退がやってきます。
多くの人が懸念するのは、ドナルド・トランプ大統領が好調な米国景気の下で大型の景気刺激策を打ち出そうとしていることです。昨年中に、大型減税の実現に道をつけました。さらに、大型の公共投資も発動させようとしています。
こうした景気刺激策は、普通、景気後退期に行うものです。これだけ景気が良い時に大規模な景気刺激策を取ろうとしていることが、景気過熱懸念につながっています。
これまで世界景気は、世界の株高を支えるに十分なほど「温かい」が、金利が大きく上昇して株安を招くほど「熱く」はありませんでした。資産バブルを生むのに都合のいい「ほど良い湯加減」が続き、仮想通貨の急騰や世界的な株高を生む温床となっていました。
ところが、2月に入って、米国の1月の平均賃金が前年同月比2.9%上昇していたとわかった時から、市場環境は変化しました。米国でインフレ懸念が強まり、長期(10年)金利が3%に近づき、過剰流動性相場に終わりが近づく懸念を生じました。
株式市場を取り巻く2つの懸念
次の注目イベントは、3月20~21日に開催される予定の米国の金融政策決定会合です。ここでFRBが0.25%の利上げをすることは、ほぼ確実。市場の注目点は、利上げの有無ではなく、4月以降の利上げピッチがどうなるかに移っています。
利上げ後にFRBが出す声明文やパウエル議長の発言から、利上げが加速するか、あるいは鈍化するかを読み取ろうとします。利上げ加速の見通しが強まると、世界的に株が売られる材料となります。今年は「過剰流動性相場が終わる懸念」が続きそうです。
日経平均の先行きを考えるうえで、もう1つ、懸念材料が出てきました。今期(2018年3月期)の業績が絶好調であることがわかっていますが、来期(2019年3月期)に増益率が鈍化する見通しが広がってきたことです。
今期の平均為替レートは1ドル=111円前後なので、現在の為替レート(1ドル=106円台)が続くと、円高が来期の増益率を鈍らせる要因となります。東証1部上場の3月期決算主要841社の連結純利益は、会社予想では今期21.9%増える見込みです。ただし、1ドル=106円を前提とすると、楽天証券予想では来期の増益率は3.4%に鈍化します。
米国の利上げペースと、日本企業の業績の先行き。4月から始まる新年度は、この2つの“懸念”とどう向き合うかが重要になってきそうです。
(写真:ロイター/アフロ)