はじめに
2014年8月に入山規制が出されてから約3年半。熊本県・阿蘇山の火口周辺への立ち入り規制が、2月28日に解除されました。これによって、火口から半径1キロメートル以内への立ち入りができるようになりました。
同日に行われた記念セレモニーには、熊本県の営業部長兼しあわせ部長であるくまモンや、阿蘇市のイメージキャラクターのあか牛くんが登場。その後の火口見学は濃霧で断念となりましたが、それでも現地の雰囲気は熊本が誇る一大観光地の復活に笑顔があふれていました。
今回の阿蘇山観光の復活は、地元・熊本の経済にどのような影響を及ぼしうるのでしょうか。データを基に考察してみます。
大地震後に国内外の観光客が激減
熊本県観光統計表によると、2016年に同県を訪れた観光客は約4,854万人。2015年の5,972万人と比べると、2割の減少となりました。また観光消費も、2015年の約3,018億円から2016年は約2,565億円と、こちらも2割近いマイナスでした。
観光産業への打撃の中で、特に深刻なのが海外からの観光客です。日本政策投資銀行・九州支店の調査によると、九州全域へ観光に訪れる外国人のうち、9割を占めているのが東アジアだといいます。
また、主なアジア8ヵ国・地域(中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア)では、熊本地震のことを「知っている」と答えた人が8割に上りました。さらに、熊本県での過去5年間の宿泊客推移を見ると、熊本地震の影響で2016年は48.6万人。前年の64.3万人から24%減と、大きな痛手となっていることがわかります(下図)。
阿蘇地域についても状況は同じです。震災前には年間80万人だった宿泊客も、足元ではその6~7割にとどまっています。2015年までは1,600万人前後で安定的に推移していた年間の総観光客数も、熊本地震によって一気に減少(下図)。2017年については未集計ですが、さらに減少している可能性は高そうです。
法務省「出入国管理統計」によると、九州地方への外国人入国者数は2016年で361万人と、2011年の72万人を底に右肩上がりとなっています。セレモニーの際に熊本県の小野泰輔副知事が「九州全体で見ると外国人インバウンドは増加し続けている中、熊本県が震災と火口観光規制の影響を受けて苦戦している」と話していた通りの状況なのです。
阿蘇最大の観光資源は阿蘇山
阿蘇市の人口は2.7万人(2015年)で、熊本県の中でも小さい規模です。ただ、それに対する観光客数はピーク時で1,600万人と、「観光立市」と言って差し支えない地域です。
そんな阿蘇最大の観光資源は、なんといっても阿蘇山。登山やサイクリングをはじめ、猿回し劇場や展望台、滝、博物館、牧場、グルメなど、豊かな自然の観光資源にあふれています。特にカルデラの外輪に立って火口を眺める火口観光は、外国人からも人気を博しています。
阿蘇山の雄大な自然の中には観光資源があふれている
阿蘇地域の観光資源の重要な一端を担っているだけに、火口観光規制は大きな痛手になってきました。2月28日のセレモニーでは、関係者から「火口観光再開は観光客の落ち込む熊本県、最後の切り札だ」と熱っぽい話が聞かれました。
観光再開の準備は着々と
セレモニーに向かう途中、阿蘇山へとつながる道路はあちこちで舗装工事をしていました。噴火の際に壊れてしまった柵や看板があり、火口観光再開に向けた工事をしていたものと思われます。
これから多くの人を迎え入れ、少し寂しかった阿蘇山周辺は盛り上がっていくことでしょう。28日はあいにくの濃霧で入場規制となってしまい、初日に訪れた観光客は「せっかく来たのに残念」と少し落胆していました。
ですが、焦らずとも、火口観光はまさにこれから楽しめます。阿蘇山には火山活動をしばらくの間、お休みして、熊本震災復興の切り札として活躍してもらいたいものです。