はじめに

森友学園問題に関連して、マスメディアでは財務省理財局という部署名をよく見かけます。この部署名にある「理財」という言葉は、一般には馴染みが薄いようにも思われます。皆さんは、理財の意味をご存知でしょうか。理財という言葉の意味と歴史について、前後編の2回に分けて分析してみましょう。

前編の今回取り上げるのは、理財の「意味」。日常生活でこの言葉を使えるレベルを目指して、意味の把握に挑戦してみます。


財を理(おさ)める

まずは辞書を使って、理財の意味を調べてみましょう。岩波国語辞典(第7版)では「財産を有利に運用すること」、新明解国語辞典(第7版)では「(利益があるように)財産やお金をうまく動かすこと」、明鏡国語辞典(第2版)では「金銭や財産を有効に運用すること」、三省堂国語辞典(第7版)では「財産やおかねを有利にはたらかせること」とあります。これらのいずれの説明とも、理財とは「金銭・財産をうまく運用すること」である、と述べています。

理財という熟語を分解すると「理」と「財」に分けることができます。このうち理の部分は、物事のことわり(筋道)という意味のほか、物事をおさめる(筋道をたてる、うまく取り扱う)という意味も持っています。この後者の意味に従って理財を言い直すと「財を理(おさ)める」となり、すなわち、財産や財政などをきちんと取り扱う意味となるわけです。

理財局=財産管理局

さて現代社会において、理財という言葉が登場する場所はさほど多くありません。その数少ない場所のひとつが、あの財務省理財局なのです。

財務省の内局には主計、主税、関税、国際、理財の5局があります。おおまかにいえば主計局は国の歳出を、主税局は税金を、関税局は文字通り関税を、国際局は国際金融市場を担当しています。省内における花形は、主計・主税の2局とされることも多いようです。

そして問題の財務省理財局とは、おおまかには国有財産の管理を担当する局のこと。つまりこの場合の理財は「財産管理」を意味することになります。なお理財局の実際の業務範囲は、局内におかれる9課の顔ぶれ(総務・国庫・国債企画・国債業務・財政投融資統括・国有財産企画・国有財産調整・国有財産業務・管理)を見れば、だいたい想像がつくでしょう。森友学園問題では国有地の売却が問題になりましたね。

この理財局という組織は、旧大蔵省時代の1897年(明治30年)から続いているもの。官公庁の中でもとりわけ由緒ある組織であり、由緒ある名前でもあります。現在ではこの組織名が、言葉としての理財が生き残る数少ない場所となりました。

理財部=金融部

ところで日本社会の中に、もうひとつ理財の名が残る場所があります。商工会議所です。

商工会議所とは、地域内の商工業者が自由参加する経済団体のこと。東京商工会議所や大阪商工会議所など、全国の津津浦浦に地域の商工会議所が存在することは、皆さんもよくご存知のことでしょう。

その商工会議所の一部に「理財部」という部会名が残っているというのです。ちなみに商工会議所における部会とは、会員企業の業種ごとに所属が決まる活動組織を言います。

この部会名が誕生した時期は、大蔵省理財局と同じく明治時代でした。東京商工会議所の前身である東京商“業”会議所の定款(1891年・明治24年制定)には、商業部、工業部、運輸部などとともに理財部との部会名が記されていました。東京商業会議所は1928年(昭和3年)に東京商工会議所と改称したものの、理財部の名は1954年(昭和29年)まで残りました(参考:「経済学と『理財学』」下谷政弘、福井大学論集・第36号、2011年)。

ちなみに東京商工会議所で理財部の後継組織として登場した部会は「金融部会」を名乗っています。つまり、商工会議所における理財とは、金融業界を意味するわけです。実際、東京商工会議所の金融部会には、銀行業や保険業など、金融関係の会員企業が参加しています。

現在の東京商工会議所には理財を冠する部会名は残っていません。しかしながら全国の商工会議所の中には、現在でも理財の名前を残している部会が存在します。筆者が把握している限りの情報では、佐野商工会議所(栃木県)の「金融理財部会」、沼津商工会議所(静岡県)の「理財情報部会」、館林商工会議所(群馬県)の「理財医療福祉部会」などの事例がありました。

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