はじめに
支出が収入の範囲に収まっていない家計を、長く続けることはできません。収入を増やすのは簡単ではないので、まず考えるべきは「支出の削減」です。
こうした時にしばしば出てくるのが「保険の見直し」です。今回は、生命保険の見直しの一番重要なポイントを解説します。
まずは年齢の“分岐点”を把握
無駄な保険料を払い続けないために、まず知らなければならないことがあります。皆さんは、何歳から何歳まで「早死にリスク」に備えなければならないですか。まず、そこをきちんと把握しましょう。
と、ここまで読んで、「ずいぶん穏やかならざる質問だ」と思った方もいるかもしれません。「何歳まで生きたら、後は死んでもいいか」と聞かれたと、勘違いした方が必ずいると思います。そういう意味の質問ではありません。これは、あくまでも、経済的な問題です。
私が投げかけた質問の意味をきちんと理解していただくために、私自身を例にとって、説明しましょう。
何歳までが「早死にリスク」か
私は、現在56歳です。私は30歳から65歳まで、早死にリスクに備えた生命保険に入る必要があると考えています。66歳以降は、長生きリスクに備える必要があると思っています。
私は、大学を卒業して22歳で就職し、29歳で結婚し、30歳のときに長男を授かりました。したがって、30歳からは早死にリスクに備えた保険が必要になりました。29歳までは、独身でしたので、生命保険は必要ありませんでした。
早死にすると両親は悲しみますが、両親が経済的に窮地に陥ることはなかったからです。両親を扶養しているわけでない限り、独身の間は、原則、生命保険は必要ありません。
現在の予定では、65歳まで働き、そこで定年退職する予定です。この前提で考えると、経済的にいえば、早死にすることで家計の収入が途絶えて家族が困窮するリスクは65歳まではあるが、66歳以降はないことになります。したがって、生命保険で早死にリスクに備える必要があるのは、65歳までです。
誤解のないように申し上げると、私は決して「65歳まで生きれば、あとは死んでもいい」と考えているわけではありません。日本人の平均寿命(男性80.98歳、女性87.14歳、2016年厚生労働省調べ)より長く生きて、できる範囲で細々と書く仕事を続けたいと考えています。
ただ、その場合、心配になることが1つあります。「私がもし100歳まで生きたら、お金(貯蓄)は足りるのだろうか」という心配です。
平均寿命くらいまで生きるのに必要な貯蓄は、65歳までになんとか作れると予想していますが、それ以上、長く生きると、貯蓄が続くか、やや不安があります。それが、私の言う「長生きリスク」です。
「掛け捨て」と「終身」を比較する
ここまでお話しすれば、「早死にリスク」「長生きリスク」を、きちんと理解いただけたと思います。それでは、改めて問います。読者の皆さんは、ご自分が早死にしたときに、家族が困窮するリスクを何歳まで負うと、予想していますか。これは、何歳まで働くかという問いと、ほぼ同じです。
仮に、65歳まで働く予定とします。65歳まで扶養家族がいて、家計を支えているならば、生命保険は65歳までの定期保険(いわゆる「掛け捨て」保険)に入るのが合理的です。「掛け捨て」という言葉の響きが良くないので嫌う人もいますが、そのほうが保険料の節約になる場合が多いといえます。
もし、終身保険(死亡時に保険金が出るもの)に入り、今も保険料を払い続けているとしたら、一度、以下の手順で収支がどれくらい改善するか、計算してみてください。
A:今、保険料を払い続けている終身保険を解約すると、いくら解約返戻金を受け取れるか。
B:退職するまで、死亡保険金が同額の定期保険(掛け捨て保険)に入るならば、月々払う保険料はいくら安くなるか。
C:月々の保険料が安くなる分で浮くお金と、解約返戻金を貯蓄し、30年国債(現時点の年利回りは0.74%)くらいの利回りで、平均寿命(男性81歳、女性87歳)まで運用すると、平均寿命での死亡時に、いくらの貯蓄ができているか。
この見直し(A-C)を実施すると、平均寿命での死亡時に残るお金が、終身保険で受け取る死亡保険金より、かなり大きくなる場合もあります。もちろん、お持ちの保険の内容により、一概には言えません。一度、計算してみると良いと思います。
なお、死亡時に受け取る生命保険金は、現時点での税制では500万円×法定相続人の数だけ、相続財産から控除することができます。相続対策を考えて、一時払いの終身保険に入るのは合理的な場合もあります。ただし、相続税制は変更になる可能性もあり、注意を要します。
最後に、長生きリスクをカバーするには、どういう保険に入ったら良いでしょうか。最近、長生きリスクをカバーする年金保険(トンチン年金)が出て、注目されています。早死にすると受け取る年金が減り、長生きするほど受け取りが多くなる仕組みです。これについては、また別の機会に解説します。