米国のドナルド・トランプ大統領が3月22日、通商法301条による対中制裁として、600億ドル規模の制裁課税を行う、中国をWTO(世界貿易機関)に提訴する、などといった措置を表明しました。中国による知的財産権の侵害を理由に挙げています。

米国では直近、主要閣僚が相次いで解任され、後任には対中強硬派とされている人物が就任しました。政権内の混乱も含めて、トランプ政権の打ち出す政策はまだ流動的で、なかなか先が読めないという状況です。

トランプ大統領が打ち出した政策によって、アジア経済にどのような影響があるか、という点について考えてみたいと思います。


もはや「ニセモノ大国」ではない

トランプ大統領が指摘している通り、中国はこれまで、「ニセモノ大国」と揶揄されるくらい権利やモラルに対する意識が希薄な国、というレッテルを貼られてきました。しかし、近年はそのような評価があてはまらなくなっています。

中国は「ニセモノ大国」から「本物のハイテク国」へ変貌しつつあるのです。実際、各企業では、本腰を入れて自社の技術力向上に取り組み始めており、徐々にその効果が出始めています。

以前は、特許権侵害などを理由に中国企業が提訴される、というパターンが一般的でしたが、逆に中国企業のほうから他の海外企業を提訴する、というケースが増えてきました。中国が力をつけてきていることがわかります。

中国企業の技術力向上、世界の貿易市場における中国の存在感の高まりなどの点から考えれば、今回の米国の措置は米国にとってもあまりメリットの多い措置とは考えにくく、今後は徐々に緩和される可能性があると思われます。

存在感増す中国の特許件数

世界知的所有権機関によると、2017年の国別国際特許出願件数は、中国の件数が前年比13%増の4万8,882件となり、日本の4万8,208件を上回りました(下図)。2002年以来、日本は世界2位を維持していましたが、今回の逆転で、国別ランキングは1位:米国、2位:中国、3位:日本という順になりました。

また、ここ数年の上位国の増加ペースや、近年の中国企業の研究開発強化などの状況から見て、数年のうちに中国が世界最大の特許出願国となる可能性が高いと思われます。

現在、中国は「中国製造2025」というスローガンを掲げ、2025年までに中国を製造強国に転換していこうとしています。今の状況を見る限り、計画前倒しで目標を実現させる可能性が高いでしょう。

国別ランキングだけでなく、個別企業でも中国企業の存在感が際立っています(下表)。ベスト3を挙げると、1位が華為技術(ファーウェイ、中国)、2位が中興通訊(ZTE、中国)、3位がインテル(米国)となっています。

実際に、中国企業が取得している特許を盾にして他社を訴える、というケースが出てきました。

2016年5月には、前出の企業別ランキングで年間1位だったファーウェイが、韓国のサムスン電子を相手取って特許権侵害の訴訟を起こしました。中国企業がサムスン電子相手に訴訟を起こしたのは初のケースで、中国企業が力をつけてきたことを象徴する出来事であったといえます。

中間財の輸出国にも打撃

今回の制裁が実行されたときに影響を受けるのは、中国だけではありません。現在、中国から米国へ輸出されている電機製品の大半は最終製品ですが、この最終製品に到達するまでの中間財輸入の約8割を占めているのが東アジアからの輸入です。

韓国や台湾などが中間財を提供している主要プレイヤーですが、もう1つ、ベトナムも注目されます。ベトナムはここ1~2年で恒常的な貿易赤字状態から脱却しつつありますが、その原動力となっているのが、実はサムスン電子の携帯電話のベトナム工場からの輸出です。

米国の中国に対する制裁は、ベトナムに対しても何らかの形で影響を与える可能性があります。特にベトナム経済の輸出依存度は大きく、ようやく落ち着いてきた通貨ドンの動向を含めて、今後のベトナム経済への影響が懸念されます。

(文:アイザワ証券 投資リサーチセンター 明松真一郎 写真:ロイター/アフロ)