はじめに

4月10日に開かれた金融庁の「仮想通貨交換業等に関する研究会」の第1回会合。同庁の会議室は傍聴者や報道陣で超満員となり、仮想通貨に対する世間の関心の高さがうかがわれました。

世間の耳目が集まる中、初回の会合ではどのような議論が展開されたのでしょうか。オブザーバーによる説明と会合メンバーから出された意見の要旨を振り返ってみます。


「世界でも例を見ない報告」

東京・霞が関の金融庁で4月10日午前10時から始まった第1回会合。冒頭では、事務局を務める金融庁が資料に沿って、研究会を設置した趣旨や仮想通貨交換業に関する規制の動向、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の説明、仮想通貨に関する相談事例などを紹介しました。

続いて説明に立ったのが、仮想通貨の業界団体として3月29日に発足した「日本仮想通貨交換業協会」の奥山泰全会長(マネーパートナーズ社長)でした。奥山会長は、みなし業者3社を含む国内の交換業者17社を対象にした、国内外における仮想通貨の取引状況などを報告しました。

「こうした報告は、世界でもあまり例を見ません。国内では、初めて登録交換業者によって、これだけの資料形成が成されました」(奥山会長)といいます。確かに、この報告には興味深い事例がいくつも紹介されていました。

明かされた国内取引の現状

たとえば、国内における仮想通貨の取引量では、2014年には現物取引が24億円、証拠金・信用・先物取引が2億円だったものが、2017年には現物が12兆7,140億円、証拠金などが56兆4,325億円と逆転。後者に占める証拠金取引の割合が97.44%と、圧倒的なウエートを占めています。

また、2017年の取引量のうち、ビットコインの取引額は現物で10兆4,975億円、証拠金などで56兆4,269億円と、いずれの取引形態においても他の仮想通貨を大きくしのぐ規模となっている現状が浮かび上がりました。

顧客の年代別分布では、現物だと20~40代で全体(350万人)の90%を占めるのに対し、証拠金など(総数14万人強)では30代(34.14%)を中心としながらも、50代も13.98%を占めるなど、現物よりも40~50代の参加が多い状況がわかりました。

預かり資産額の分布状況では、10万円未満が全体の77.16%だった一方、1億円以上は268口座と0.02%にとどまりました。また、顧客の入出金状況では、2017年前半から入金額が膨張し始め、ピークだった同年12月には1兆円を突破。これ以降は減少傾向にあるものの、2018年3月でも入金額は500億円を超えており、一方で顕著な出金超にはなっていないといいます。

オブザーバーとして最後に説明したのは、みずほ証券の小川久範氏。テーマはICOについてです。

ICOの概要やICOによって販売される「トークン」の分類、ICOのプロセスなどについて説明した後、これまでのトークン販売額が累計で1兆円を超えており、2017年後半以降は韓国の現代グループ系企業や実績のあるスタートアップ企業などによる大型案件が増えている現状が報告されました。

賛否両論が噴出

一連の説明を受けた質疑応答では、研究会メンバーからさまざまな意見が寄せられました。過半は否定的なものだったように感じられます。主な意見は以下のようなものでした。

「昨年の価格急騰の震源地はイーサリアムとICO。ICOが急拡大した昨年1~5月以降に、その他の仮想通貨も次々に値上がりしました。>ICOによって得られるトークンがセカンダリー市場において高値で売れて儲かるという認識が広がったためですが、価値のないものが何倍
にも値上がりする状況を放置すれば、壮大なババ抜きゲームになります。大きな不公正を作り出す問題をはらんでいます」

「仮想通貨交換業者に対して、安全対策基準が必要ではないでしょうか。また、他の金融事業者とのイコールフッティング(条件などを同一にそろえること)も考慮すべきです。8割の利用者がレバレッジをかけていることを考えると、レバレッジに制限をかけることも検討したほうがいい。さらに、みなし業者には登録期限を定めたり、サイトに“みなし”の表記を義務付けるべきではないでしょうか」

一方で、過剰な規制をかけるべきではないという意見も複数ありました。

「真っ当なICOのプロジェクトが何割かあるとすれば、ICO自体を禁止することで有望な企業が海外に出て行ってしまう可能性を議論すべき。また、日本だけでICOを禁止にしても、海外では残ってしまう。多くの場合、ネット上で海外のICOサイトにもアクセスできます。海外のICOの募集に応じるのを禁じるのは難しいのではないでしょうか」

「クローズ型のブロックチェーンは地域活性化にも活用できます。ICOも使い方によっては、コアな投資家から簡便に資金を集められる手段になります。世界に先駆けてICOのホワイトペーパー(計画書)に関する情報開示の義務付けやモニタリングを講じることで、リスクマネーの供給源として使えるかもしれません」

また、次回以降の議論に向けて、金融庁に対する要望も聞かれました。

「自分の認識以上に、仮想通貨が個人に浸透していることがわかりました。当局の資料に利用者の声が掲載してありましたが、具体的にどうなのか、もう少し詳細を知りたい」

第1回の会合ということもあり、現状はさまざまな意見が提示されただけの段階です。研究会の議論を踏まえて、日本の仮想通貨業界がどのような方向に向かうのか。まだまだ予断を許さない状況です。

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