はじめに
西武のこだわりが随所に
今回の池袋のビルでは、線路の真上に鉄骨を渡して人工地盤を作り、その上に建物を建てていくプロセスを経ています。とはいえ、電車を走らせながらの工事ですから、実際に工事ができるのは、鉄道の電源が完全に落ちている深夜から未明にかけての3時間半だけ。
それゆえ、人工地盤を作るだけで半年を要したそうです。線路をまたぐことでビル全体の強度が上がるとか、オフィスの機能が高まるとか、テナントから高い賃料が取れるなどということはおそらくありませんので、「やってみたいからやってみた」のでしょう。
何しろ線路の上空を建物で覆うのですから、鉄道路線の営業権、線路に隣接する敷地を所有しているなど、さまざまな条件がそろわないと実現しません。
ビルの外装も、細いワイヤーを組み合わせたものを付けていますが、これは列車のダイヤをイメージしたものだとか。これも単なる装飾で、特に強度が上がるわけではありません。
線路を跨ぐ仕様も、列車ダイヤをあしらった外装も、万人受けするものではなさそうなので、これだけを見るために人が集まって来ることはないとは思います。しかし、鉄道ファンは大喜びなのではないでしょうか。
新ビルは街全体にどう影響?
今回の建て替えは、あくまで西武のビルを1棟建て替えるだけの事業であって、三井不動産や三菱地所がやっているような、街全体を作り替えてしまうような大規模なものではありません。
商業施設も、あくまでビルの入居者の需要を賄うことを目的にしていて、ここにまったく別の場所から人を呼び込むことを目的にしているわけではありません。したがって、このビルが完成しても、池袋がまったく新しい街に変わるわけではありません。
しかし、将来的には人の流れが変わる可能性も秘めています。というのも、西口では、東武百貨店、西口公園、バスターミナルを一体開発する計画があり、それに合わせて豊島区が東西を結ぶデッキの建設を計画しているのです。
新ビル(中央左の格子状の建物)はびっくりガードの真横に建つ
この東西デッキはちょうど、今のメトロポリタンプラザビルの辺りと、西武百貨店と西武池袋駅のビルが隣接する辺りに建設される予定です。これが完成するタイミングで、この西武のビルとデッキを結ぶ連絡通路を作ることも計画されています。
人の流れが変われば、周囲も変わらざるを得なくなります。今は中規模のビルが密集するこの地域にも、再開発の計画が浮上する可能性は十分あります。
西口の大規模再開発は2024年以降の着工ですから、東西デッキの完成はさらにその後です。まだだいぶ先のことではありますが、10年後には池袋がまったく別の街に生まれ変わっているのかもしれません。