はじめに

ソフトバンクグループ(SBG)が東京国税局から海外子会社の所得漏れを指摘されたという報道がありました。ニュースが話題になったのは、その金額の大きさが一因。約939億円の申告漏れを指摘されたのです。

最終的にSBGが支払った税金は約37億円で済んだということですが、今回の一件は同社の経営にどのような影響があるのでしょうか。


過去4年間に及んだ巨額の申告漏れ

そもそも、なぜ今回のような事態が起きたのでしょうか。買収した海外企業がタックスヘイブン(租税回避地)に子会社を持っていて、その節税額が日本の税法上はSBGと合算して所得として申告しなければならないとみなされたそうです。

問題となったのは、2013年に買収した米国の通信会社スプリントと、2014年に買収した米国の携帯電話卸であるブライトスターの2社。タックスヘイブンであるバミューダ諸島とシンガポールに子会社を設立し、保険の受取金などの収入をこの子会社が受け取ることで利益を移していたといいます。

今回の申告漏れは意図的に行ったわけではなく悪質ではないということで、重加算税などのペナルティは発生しなかったもようです。SBGには過去の損失があったことから、それも税務上、相殺されて、今回の追徴税額は37億円にとどまったといいます。

このSBGの申告漏れは、同社に興味を持つ投資家にとって、どのような影響があるのでしょうか。私は3つのポイントがあると思っています。

影響額は37億円では済まない

1つ目のポイントは、追徴税額が37億円にとどまったので良かったわけではないということです。実際はSBGの未来のキャッシュフローは、今回の申告漏れで従来想定よりもかなり少なくなりました。

約939億円の申告漏れがあったということは、実際は追加で939億円の利益が出ていた計算になって、その金額に税金がかかります。今回の申告漏れは過去4年間ということですが、簡易計算のために法人税の実効税率を平成28年基準の23.4%で計算すると、支払うべき税金は申告時よりも約220億円増えたという計算になります。

それでも支払った、つまり出ていったキャッシュは37億円だけだったので「被害は少なかった?」と考えてしまいがちです。しかし、それは間違っています。

差額の183億円、つまり今回出ていかなかったお金は、これから先の決算期で節税できるはずだったお金です。これをNOL(Net Operating Loss、繰越欠損金)というのですが、SBGは今回の追徴課税によって、先にそのNOLの節税枠を使い切ったわけなのです。

ですから、今後の決算では最終利益が出てしまうと、SBGは従来の想定よりも183億円分多く税金を払うことになります。目の前の支出は抑えられたけれど、これから先、予定していたよりもかなり大きいキャッシュが出ていってしまう事態になりました。

「見えないリスク」の存在という問題

2番目のポイントは、こういった海外企業の活動は投資家の立場では「見えない」ということです。

スプリントの子会社がバミューダ諸島にあって、そこで節税していることをSBGが把握していなかったからこそ、追加の申告が必要になったわけです。持ち株会社が気付いていないことを、外部の投資家が見抜けるわけはありません。

これは、東芝が解体されてしまうことになった状況と似ています。東芝の場合、買収した米国の子会社がさらに子会社を持っていて、この孫会社が信じられないほどの赤字を計上してしまったというのが、すべての誤算の始まりでした。

もちろん、東芝の場合は福島の原子力発電所の事故から始まった世界的な原発需要の冷え込みがその根底にあるので、SBGがそれだけのリスクを負うことはないと思います。

しかし、持ち株会社が把握していない投資先企業のさらに先で行われている取引や活動のせいで、グループ全体の決算がこれだけの規模で影響を受ける可能性があることがわかったのは、投資家から見れば大きなリスク要因であることに違いありません。

SBGが抱える本質的な問題

そして3つ目のポイントは、このような海外企業買収のリスクはSBGの抱える本質的な問題であるということです。

同社は、グローバルな視点からさまざまな企業に投資をし、成長してきたIT企業です。これまでも中国のアリババや米ウーバーなど世界的に有名になった会社に次々と出資してきており、そのことが投資家がSBGに対して高い成長期待を持つ根拠となっています。

しかし、投資先の海外企業において、把握しきれていなかったマイナス面が後から出てくるリスクがあることが今回発覚しました。つまり、SBGはこれからも同様の経営リスクを抱えながら、それでも成長力のある海外企業に投資するというサイクルを繰り返さざるをえないのです。

時価総額の面でも日本の株式市場全体に大きな影響を及ぼすようになったSBGが、その成長を牽引してきた投資事業において、こうしたリスクを抱えている。その意味において、今回の一件はSBG株を保有していない投資家もきちんと理解をしておくべき大きな出来事だったのだと私は思います。

(写真:ロイター/アフロ)

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