はじめに

学生時代、私はESS(英会話サークル)に所属して英語の競技ディベートで遊んでいました。そこで練習用の議題として好んで取り上げられたのが「消費税増税」です。

充分に練習を重ねたプレイヤー同士で議論すると、競技ディベートは将棋やカードゲームに近づいていきます。何しろ、賛成・反対の立場をくじ引きで決められるうえに、一人あたりのスピーチ時間は7分間しかありません。

限られた時間内で、どちらの立場でも充分に戦えるようになるには、「よくある論点」を覚えておくほかありません。トランプの切り札を切るように、あらかじめ暗記しておいた論点を状況に応じて提示していくわけです。


消費税増税の論点

消費税の「反対派」になったら、必ず語るべき論点が二つあります。一つは「消費税の逆進性」について。もう一つは、増税がもたらす景気後退です。

消費税には、貧乏な人ほど税負担の割合が重く、お金持ちほど軽くなるという特徴があります。年収200万円の人はほとんど貯金する余裕もなく、収入のほぼ全額を消費に回すことになるでしょう。

一方、お金持ちになるほど収入のうち消費に回す比率も少なくなり、所得に対する実質的な税率が低くなってしまうのです。これを「逆進性」と呼びます。歴史的には「人頭税」のような、消費税よりもさらに逆進性の強い税金が導入されていた時代もありました。

ちなみに、所得税の場合はお金持ちほど税率が高くなる仕組みです。所得が増えると、支払う金額だけでなく、その率まで上がります。これを累進課税と呼びます。

18世紀にはすでに、〝経済学の父〟ことアダム・スミスが、各人の支払い能力に応じた課税をすべきだという見解を述べていました。国民が収入を得られるのは国家の保護があってこそのなのだから、大きな収入を得ている人はそれだけたくさんの税金を納めるべきだというのです。

スミスを始めとした近現代の経済思想からいえば、逆進性を持つ消費税は認められません。金持ちを優遇して貧乏人から搾り取るのであれば、公平な課税とは言いがたいからです。所得税のような累進課税のほうが、より公平(フェア)な課税だと言えます。

また、消費税に限らず、あらゆる税金の増税には景気を冷ます効果があります。

かなりアクロバティックな論理展開をしなければ、「増税によって好景気になる」という理論は捻り出せません。増税が好景気に繋がるという経済学説は、ほぼ皆無と言っていいでしょう。バブル崩壊後の日本についていえば、景気がやや好調になるたびに消費税を引き上げてきたという過去があります。

国家の収入源としての税金

そもそもの問題として、私たちは税金があまり好きではありません。

これだけ嫌われている消費税ですが、なぜ政府は増税したがるのでしょうか?

その理由を端的に示すのが、財務省の開示しているこのグラフです。[1]

日本では2014年4月より、消費税を5%から8%に引き上げました。その結果、消費税による税収が大きく伸びたことが分かります。

実のところ、この「税収の確実さ」が消費税の一番の強みです。人間は景気が多少上下しても、一年間の消費金額をそう簡単には変えません。だからこそ消費税は、社会情勢に左右されず安定的な税収をもたらすのです。

反面、法人税や所得税は乱高下しています。ご存知の通り、これらの税金は一年間の決算が赤字のときは課税されません。2008年秋のリーマン・ショックの影響で、翌年は多くの日本企業が赤字になりました。その結果、2009年は法人税による税収も大きく下落しています。

そもそも税金の目的は、国家の財源を得ることです。

現代でこそ〝経済政策〟として税金が頻繁に議論されるようになりましたが、これは20世紀以降の傾向です。前回の記事で家産国家から租税国家への発展について紹介しましたが、国家予算が政府の財産では賄えなくなったからこそ、税金によってそれを補うようになったという歴史的経緯があります。

テレビやインターネットでは経済政策としての税金ばかりがクローズアップされて、国家にとっての収入源としての税金があまり議論されません。この辺りに「税率を上げたい人たち」と「それに反対する人たち」の認識のズレがあるように感じます。

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