はじめに
今後、課税はどうなるのか
ところで、バブル期(1980年代末~90年代初頭)をピークに、法人税収と所得税収はおおむね右肩下がりを見せています。
これは一体、なぜでしょうか?
その答えも財務省の開示している資料のなかにありました。[2]
上記のグラフは、法人税の推移を示したものです。昭和59年(1984年)の基本税率43.3%をピークに、税率は下がり続けていることが分かります。実をいえば個人の所得税も似たようなもので、住民税もあわせた最高税率は昭和49年(1974年)の93%から、現在では55%へと減税されました。[3]
ざっくり言えば、法人税と所得税を減税して、代わりに消費税を上げることで税収を補ってきた――。これがバブル期以降の日本の税制です。
次なる疑問は、なぜ法人税と所得税を引き下げたのか、です。
これはジェフリー・サックスなどの経済学者が「底辺への競争」と呼ぶ現象が、少なくとも一部は現実のものになってしまったからだと、私は理解しています。経済や金融の国際化が進んだ結果、国際的な法人税率の引き下げ合戦が起きてしまったのです。
(※底辺への競争という言葉には、税率だけではなく環境規制や労働規制も緩和も含まれているのですが、ここでは脇に置きます)
たとえば、世界各国に子会社を持つ多国籍業を考えてみてください。
税率の高い国の子会社に資材調達を命じて、その資材を税率の低い国の子会社に格安で買い取らせたとしましょう。税率の高い国の子会社では大した利益は出せず、ときには赤字になるはずです。したがって、法人税はほぼ生じません。
一方、税率の低い国の子会社は格安で資材を購入したので、莫大な利潤を出せるはずです。しかし税率は低いので、法人税は安く済みます。
以上は簡略化した喩え話ですが、概要としてはこういうことです。どこか一つの国が税率を引き下げると、他の国もそれに追従せざるを得ないのです。
特に大胆な減税に踏み切ったのがアイルランドで、1981年に45%から10%へと大幅に引き下げました。さすがにここまで法人税率を下げている国は先進諸国では珍しいのですが、かつては60%以上の法人税を課していたドイツやスウェーデンも、現在は実効税率ベースで20~30%台まで減税しています。
大企業は国をまたいで最も税率の低い地域を選ぶことができます。また金融による収入で生活している資本家も、自分の資産を世界中のどこにでも移すことができますから、税金の一番安い地域を選べます。
金融所得のような移動性の高いものに対する課税は今後ますます難しくなり、移動性の低いもの――消費や労働所得――に重税が課されるようになるでしょう。これは日本だけに限らない、先進国の大半に当てはまる現象です。
現在の傾向が続けば、サラリーマンの給与天引きは増え続け、消費税率は上がり続けることが予想できます。この問題を解決するのは日本一国では難しく、国際的な協調が欠かせません。
また重要な論点として、徴税額だけでなく、行政のサービスと比べる視点も必要です。たとえ税金が重たくても、それに見合うだけのサービスを得られるのなら、納得ずくで税金を納めることができるはずです。
アメリカの内国歳入庁(IRS)の入り口には、こんな碑文が掲げられているそうです。
「租税とは、文明の対価である」
考え方によっては、納税はもっとも身近な政治参加だと言えます。
日本が主権在民の国である以上、私たちは税金の徴収額と使途が適切かどうかに注意を払いたいものですね。
■主要参考文献■
諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか』新潮選書(2013年)
[1]税収に関する資料 ‐財務省 http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a03.htm
[2]法人税率の推移 http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/082.htm
[3]所得税率の推移 http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/035.htm