はじめに

米国の経済メディア、ブルームバーグが関係者の話として、ネット通販大手のアマゾン・ドットコムが家庭用ロボットの開発を進めていると報道しました。これに対してアマゾンは「噂や憶測にはコメントしない」と述べたそうですが、巷ではこの報道に対するさまざまな反応があふれています。

仮にこの報道が真実だったとして、アマゾンはなぜ家庭用ロボットに参入するのでしょうか。その意図を考察してみましょう。


プロジェクト名が意味するもの

ブルームバーグの報道によると、この極秘プロジェクトはアマゾン社内では「ベスタ」と名付けられ、数年前から始まっていたそうです。今年に入って積極的に人員が拡大されており、来年に家庭用ロボットを発売することを目指しているといいます。

公式にはアマゾンはこの報道へのコメントを拒否しています。一方で、事情通の多くは同社が家庭用ロボットを開発する意味を即座に理解し、そのような社内プロジェクトが実際に存在することが確認できたことで、ある意味において興奮しているようです。

いったい、アマゾンは家庭用ロボットで何をしようというのでしょうか。

最初に注目したいのが、プロジェクト名である「ベスタ」です。このベスタはローマ神話に登場する「かまどの女神」です。ローマ時代の家庭でもかまどは生活の中心だったことから、ベスタは家庭生活の守護神としても祀られてきました。

このベスタという名称から推察できるのは、今回のプロジェクトのゴールが家庭に関係するものを意図しているだろうということです。

予想されるベスタの機能とは?

つまり、ベスタはソニーの「aibo」のようなペットロボットでも、ソフトバンクの「ペッパー」のように直立したまま移動できないロボットでもないと思われます。家の中を歩き回りながら、家事をサポートしてくれるロボットをイメージする人が多いようです。

では、具体的にはどんなものになるのでしょうか。多くの事情通は、開発される商品はおそらく「動くアレクサ(人工知能)」のようなものになるのではないか、という推測しています。

アレクサとは、アマゾンが販売しているスマートスピーカー「エコー」に搭載されている人工知能です。日本ではまだ普及途上という段階ですが、米国ではすでに多くの家庭に入って生活に役立っています。

その米国でアレクサが一番便利に使われている用途は、冷蔵庫をチェックして買い物リストを作成するというものです。

とはいっても、今のところ冷蔵庫をチェックするのは人間の仕事。人間が冷蔵庫をのぞいて「レタスを買わなきゃ。あと牛乳も。タマネギも買っておいたほうがいいわね」とアレクサに向かって話しかけると、自動的に買い物リストができあがる仕組みです。

動き回るスマートスピーカーの利点

そのため、アレクサをキッチンに置いている家庭が多いようです。ただ、米国の家は広いですから、食事時以外は家族の大半はリビングにいたり、書斎にこもったりということになります。そこで小型のエコーを何台か買って、部屋ごとに配置しておく、という家庭も出てきます。

しかし、もしこのエコーに足が付いて、家の中を動き回ってくれるとしたら、どうでしょうか。家の中に固定されているスマートスピーカーよりも、ずっと便利な存在になってくれるはずです。

さらに、家庭内を歩き回るスマートスピーカーロボットには、当然のことながら、カメラレンズも搭載されることになるでしょう。今、スマートスピーカーとは別の人気商品になり始めているのが、家庭内に設置して外部からスマートフォンで確認できる遠隔操作のビデオカメラです。

留守宅に残してきたペットや帰宅した子供の様子を確認したり、遠隔地に住んでいる両親と会話をしたり、といった用途で使われています。それが家庭用ロボットに搭載されれば、1台で事が足りる。そんな予測をすることもできます。

ベスタはaiboのライバルになる?

仮にアマゾンが開発中のベスタの正体が、スマートスピーカーのエコーにソニーのaiboのような手足が付いていて家庭内を移動してくれるもので、かつビデオカメラも搭載しているようなスペックのロボットだったとしたら、さまざまな活躍の場が期待できるようになります。

これが家の中に1台あれば(2階建ての家の場合、フロアごとに1台ずつ必要かもしれませんが)、スマートスピーカーの代わりになってくれます。

なおかつ、カメラが付いていて、インターネットに接続されていれば、防犯の役割も果たしてくれます。留守宅に何か異変が起きれば、物音のところまで近づいて行って、その様子をスマホに動画として送ってくれるようになります。

そして、もう1つ興味深いのは、商品のデザイン次第では、このベスタがペットとしてもソニーのaiboの強力なライバルになる可能性があるということです。機能的にはスマートスピーカーなのですが、日常的にはペットになるうえ、話し相手にもなってくれる。そして留守の間は、文字通り“番犬”として家を守ってくれる。

もしそのような生活のパートナーとなるベスタを、アマゾンが開発しているということになれば、どうでしょう。来年どのような製品が登場するのか、続報が待ち遠しいところです。

(写真:ロイター/アフロ)

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