はじめに
「ネット専業銀行の支店名が面白い」という話は、ネットの経済系メディアでよく見かける話題のひとつです。
例えば住信SBIネット銀行の場合は、イチゴ支店やブドウ支店などの果物シリーズ。セブン銀行の場合は、マーガレット支店やフリージア支店などの花シリーズ。楽天銀行の場合は、ジャズ支店やロック支店などの音楽ジャンルシリーズを採用しています。
このような支店名が必要とされるのには大きな理由があるのだそう。銀行同士でお金のやり取りをするシステム(全銀システム=全国銀行データ通信システム)の仕様上、たとえ実際の支店を持たない銀行であっても「支店名」が必要となるからです。
さて以上はあくまでネット「専業」銀行の話でしたが、それとは別に「既存の銀行が通常の支店とは別にネット支店を設ける」事例も増えています。そのようにして誕生したネット支店――その中でも、とりわけ地方銀行(地銀・第二地銀)のネット支店――の名称にも、実は面白いネーミングがたくさんあるのです。
ネット支店の「命名パターン」は?
本題に入る前に、既存銀行がネット支店を設ける場合の「命名パターン」について、おおまかな傾向を紹介しておきましょう。紹介する命名パターンは3つあります。
第一は単純に「インターネット支店」「ネット支店」などと命名する場合です。山形銀行(山形県)や北日本銀行(岩手県)などの「インターネット支店」がこのパターンに当てはまります。また池田泉州銀行(大阪府)の「ダイレクト支店」などのように、ネット取引を別の言葉でイメージさせる命名手法もあります。
第二のパターンは「連携サービスにまつわる名称」を用いる場合です。地銀の中では、スルガ銀行(静岡県)がこのパターンの命名をたくさん行っています。例えばスルガ銀行の「ANA支店」では、全日空のANAマイレージと連携するデビットカードが利用できる――といった具合です。
そして第三のパターンは「イメージ」を命名する場合です。これをもっと細かく分類すると(1)「サービスのコンセプト」を推すパターン。荘内銀行(山形県)の「わたしの支店」など。(2)「自社のイメージ」を推すパターン。自社のマスコットキャラの名前を命名した足利銀行(栃木県)の「パスカル支店」、自社バドミントンチームの名称を冠した西京銀行(山口県)の「アクト支店」など。(3)「地元の特色」を推すパターン――の3つがあります。
このうち(3)「地元の特色」に相当する命名、言い換えると「地元推し」のネーミングに、面白いものがたくさんあるのです。
場所推しの命名「イーハトーヴ支店」
一言に「地元推し」といってもそのパターンはさまざま。まず目立つのが「場所」を冠するパターンです。
このパターンに属するのは、東日本銀行(東京都)の「お江戸日本橋支店」、関西アーバン銀行(大阪府)の「いちょう並木支店」、みなと銀行(兵庫県)の「海岸通支店」、鳥取銀行(鳥取県)の「とっとり砂丘大山(だいせん)支店」、十八銀行(長崎県)の「デジタル出島支店」があります。
ちなみに、いちょう並木とは大阪・御堂筋のイチョウ並木、海岸通とは神戸市中央区にある海岸通を指します。いずれも実在の支店名でも通用しそうな命名ですが、実はネット支店であるという点が面白いですね。
このパターンで異色な存在が、岩手銀行(岩手県)の「イーハトーヴ支店」ではないでしょうか。イーハトーヴ(イーハトーブとも)とは岩手出身の詩人・作家である宮沢賢治の造語で「理想郷」を意味する言葉。宮沢は造語の由来を述べていませんが、「岩手」をモチーフに造語したものと見られています。つまりイーハトーブ支店とは「岩手支店」とも解釈できるわけです。
特色推しの命名「晴れの国支店」
なんらかの切り口で「地元の特色」を表現したネット支店名も存在します。
例えば清水銀行(静岡県)の「みなとインターネット支店」は、同行の本社がある静岡県静岡市清水区に「清水港」があることを意識した命名になっています。また沖縄銀行(沖縄県)の「美ら島(ちゅらしま)支店」は、沖縄がちゅらしま――すなわち美しい(清らかな)島――と呼ばれることを意識した命名です。
このパターンで興味深い命名は、中国銀行(岡山県)の「晴れの国支店」ではないでしょうか。瀬戸内海式気候に属する岡山県は、年間の降水日数が全国でも最小の都道府県であることから「晴れの国おかやま」をキャッチフレーズとしています。そこで中国銀行は、これを支店名をして用いたわけです。