はじめに

51歳の元弁護士の男性が4月下旬、警視庁に逮捕されました。容疑は業務上横領です。

昨年10月に弁護士資格を失っているので「元弁護士」ですが、弁護士をしていた時に依頼人に渡すべき5,320万円を着服した、というのが逮捕容疑です。本人も認めているそうで、これ以外にも同様の余罪があるらしいと報道されています。

ごく普通に生活していて弁護士が必要になることなど、一般市民にはほとんどないと思いがちです。しかし、親が死んで相続が発生したけれど、兄弟・親族間で争いが起きてしまった、親が認知症にかかり成年後見人が必要になった、といったことは誰にでも起きうることです。お隣さんとの不動産トラブルも珍しいことではありません。

とはいえ、有能かつ誠実な弁護士にたどり着くのは本当に大変で、これといった処方箋がないというのが現実でもあります。それでも、最低限度のリスクヘッジは可能です。一体どうすればいいのでしょうか。


有能かつ誠実な弁護士の見分け方

冒頭で触れた元弁護士は、他の件でも依頼者のお金を横領していて、返金を求める民事訴訟で東京地裁から敗訴判決を出されていることが昨年夏、この類の事案としては大きい扱いで報道されています。

もっとも、この元弁護士が大物プロ野球選手のタニマチをやっていたことがあるからこそスポーツ新聞を中心にマスコミが大きく取り上げたのであって、他にも弁護士による横領事件は多数起きています。これらは報道されなかったり、報道されてもごく小さい扱いであることが大半です。

成年後見人になった弁護士が被後見人の財産を横領した事件は枚挙に暇がありませんし、さらに、警察が動いてくれるほどではないレベルでしたら、問題を起こしている弁護士はもっとたくさんいます。

弁護士を探すのに、おそらく多くの人が最初にやるのはネット検索ではないでしょうか。

ヒットした膨大な数の弁護士事務所の中から、有能かつ誠実な弁護士を見分ける術は残念ながらありません。結局はやらせてみなければわからないのですが、実はとても参考になるのが、実際に会って話してみることと、過去の「懲戒歴」のチェックです。

弁護士の「懲戒」って何?

懲戒とは、問題を起こした弁護士が、弁護士を構成員として形成された弁護士会から受ける処分のことです。

弁護士は自治が認められている唯一の国家資格者です。弁護士以外の国家資格者の場合、懲戒の決定権は国の機関が握っています。

しかし弁護士は戦前には国家機関の監督下にあり、戦時中は国家の弾圧にあって国民の人権を守るという使命をまっとうできなかった反省から、懲戒権を国家機関が持つのではなく、弁護士の業界団体である弁護士会が持つ形で法制化されました。

弁護士は全国47都道府県に52ヵ所(北海道は4ヵ所、東京は3ヵ所、それ以外は1府県1ヵ所)ある地方弁護士会と、その統括組織である日本弁護士連合会の両方に加入する義務があります。加入しないと弁護士業務はできません。

弁護士に懲戒処分を下してほしい場合は、その弁護士が所属している地方弁護士会に申請をします。弁護士会は裁判さながらに弁護士と懲戒申請者双方の意見を聞き、処分を決めます。

意外と重い「業務停止」処分

懲戒は4段階あって、一番軽いのが戒告(かいこく)。口頭注意です。次が業務停止。次が弁護士会の退会命令で、最も重いのが弁護士会の除名処分です。

退会命令は地方弁護士会単位で行うので、ある県の弁護士会で退会命令が出ても、別の県の弁護士会で登録申請をして許可が下りれば、その県内でなら弁護士を続けることができます。

しかし、除名処分は日弁連会員としての資格を失うので、弁護士資格そのものを失います。冒頭の元弁護士が受けた処分は除名処分です。

2番目に軽いはずの業務停止も、実際にはかなり重い処分です。業務停止処分を受けると、たとえ停止期間が1日でも、すべての顧問契約を解除しなければならず、いったん解除してしまうと、“喪”が明けても再契約はなかなかしてもらえないので、実はかなり重いのです。

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