はじめに
5月も半ばを過ぎ、最高気温が25度を超える「夏日」が増えてきました。暑い日が続くと、どうしても食欲は落ちてしまいがち。そんな時に重宝するのが、冷やしてスッと飲める冷製スープです。
毎年、猛暑に関するニュースが増えるにつれて、冷製スープの市場規模も右肩上がり。中でも成長著しいのが、缶入りタイプの商品です。
そして、今年この分野でこれまで以上に力を注ごうとしているのが、ポッカサッポロ フード&ビバレッジです。どんな戦略で市場を拡大しようとしているのでしょうか。
年間目標は前年比2倍弱
「近年の冷製スープ市場では、缶が市場を牽引しています。この商品で夏場の需要を作っていきたい」。そう意気込むのは、ポッカサッポロの大楠栄治グループリーダーです。
同社は今年、缶入りタイプの冷製スープを従来の2アイテム(コーン、じゃがいも)に新たに栗かぼちゃを加え、3アイテムで展開します。また、かつては夏場を中心に商品を投入していましたが、昨年からは2月に販売を開始。春夏シーズンの商品として展開していきます。
中身も、温製スープと差別化。塩味も含めて、夏場でもさっぱりと飲めるよう、清涼感が高まる工夫を施したといいます。缶入りの冷製スープは年内に25万ケース(1ケース=24本入り)と、前年比で2倍弱の売り上げを目指します。
冷製スープに入れ込む理由
ポッカサッポロがここまで冷製スープに入れ込む理由は何なのでしょうか。第一の理由は、需要が拡大している点です。
市場調査会社のインテージによると、夏場(4~9月)の缶入り冷製スープの市場規模は2015年から2017年にかけて5倍弱に拡大しています(下図)。温製スープが伸び悩む中、缶入りスープ市場の拡大を牽引している格好です。
「スープ=暖かいもの一辺倒から、冷たくしてもおいしく飲めることへの訴求効果で、消費者への認知が上がり、喫食機会が増加したことが背景にあると考えられます。食欲が落ちやすい夏場に、手間もかからず、簡単に喫食できる点は、消費者心理をくすぐるには十分だと思われます」(インテージ)
冷製スープに注力する背景には、メーカー側の思惑もありそうです。インテージの調べによると、夏場の月次スープ需要は5月から低下し、7月に大底をつけ、9月から再び盛り上がる傾向があります(下図)。
「夏場に新たなユーザーを取り込み、既存ユーザーを一層定着させる施策がハマれば、需要のピーク・ボトム差が薄まり、スープ市場はさらに拡大していくと考えられます」(インテージ)
レトルトや粉末でも攻勢
最も注力するのは缶入りですが、ポッカサッポロは粉末タイプとレトルトタイプでも攻勢をかけています。特にレトルトタイプは、今年から投入を始めた新ジャンルです。
冷製レトルトスープ市場全体で見ると、需要は低下傾向にありますが、その背景について同社では「新たなニーズをとらえるための仕掛けができていないから」(大楠さん)と分析。フレンチの有名シェフ、坂井宏行さんを監修に迎え、プレミアムタイプの冷製レトルトスープを発売しました。
また、粉末タイプでは、家族で選べるアソートタイプとして訴求することを狙って、パッケージをリニューアル。牛乳のほかに水でも作れるようにして、需要の裾野拡大を図ります。
このように、缶だけでなく、レトルトや粉末でも拡販を狙うポッカサッポロの戦略は、文字通り、3正面作戦の様相です。しかし、これだと互いに市場を食い合うことにならないのでしょうか。
三石で何鳥も取る戦略
ポッカサッポロによれば、実は缶、粉末、レトルトで、それぞれ客層や飲用シーンが異なるのだといいます。
最も歴史の長い粉末は、主婦が家庭内での朝食シーンを念頭に置いて購入するケースが多いそうです。逆に、缶は学生や社会人が間食や小腹満たしの目的で、即飲できる手軽さから買い求める傾向があります。またレトルトは、働く女性や年配の男女が、家では作れないメニューや家庭内での夕食シーンを想定して購入するといいます。
つまり、それぞれのジャンルで拡販していけば、市場を食い合うことなく、需要を拡大していけるという計算なのです。一石二鳥どころか、三石で何鳥も取ろうというポッカサッポロの戦略。消費者としては夏場の食事の選択肢が広がるので大歓迎ですが、はたしてどこまで思惑通りに進むのでしょうか。