はじめに
米国で長期金利の上昇が続いています。3月16日には一時3.1%を超えるなど、約6年10ヵ月ぶりの高い水準に上昇しました。
トランプ政権が昨年 12 月に成立させた減税規模は、10 年間で 1.5兆ドルにも及ぶ大規模なものだったほか、1.5 兆ドルのインフラ投資計画も打ち出されており、国債増発懸念から金利が上昇しているのです。
この米金利上昇は、今後のマーケットにどのような影響を与える可能性があるのでしょうか。
新興国の一部にはマイナスの影響
すでに影響が出始めているのが、トルコやアルゼンチンといった経済的基盤の弱い新興国の通貨です。
2008年のリーマンショック以降、主要国が超低金利や量的緩和といった超緩和的な金融政策を打ち出したため、行き場を失った大量のマネーは、相対的に金利水準の高い新興国に流れ込みました。しかしながら、米国の景気が回復し金利が上昇し始めたことで、マネーは再び主要国、特に米国に戻りつつあります。
これがドル高をもたらし、反対に新興国通貨の売りを招いているのです。米国の金利が上昇すれば、この流れは強まる可能性もあり、注意が必要な局面といえるでしょう。
日本株にはひとまずプラスの影響
では、日本市場にはどのような影響を与えると考えられるのでしょうか。まず、米国の金利上昇は、ドル高・円安を招いています。
これは、いち早く金融政策の正常化を図っている米FRB(連邦準備制度理事会)に対して、日本銀行は「イールドカーブ・コントロール」と呼ばれる、長短金利を0%近辺に固定化する政策を取っているため、米国の金利上昇=日米の金利差拡大となり、マネーが米国に流れ、円安を招いているのです。
円安は多くの輸出関連企業にとって、円建てで見た業績のカサ上げにつながるため、日経平均株価にも追い風となりそうです。
現在、3月期末決算企業の決算発表がほぼ出そろいましたが、日経平均株価の予想EPS(1株当たり利益)は、5月23日時点で1,654円と、4月4日時点の1,693円から小幅な低下に留まりました。この結果、日経平均株価の予想PER(株価収益率)は13.7倍となり、アベノミクス以降の日経平均予想PERのレンジである14~16倍の下限近辺といった状況です。
現在の日経平均株価は割安といってよい状況であり、円安・ドル高となれば素直に反応する展開が続きそうです。
ただし、新興市場については注意が必要です。
東証1部と異なり、輸出関連企業が少なく円安の恩恵を受ける銘柄が少ないほか、高い成長力に対する期待からPERの水準が高い銘柄が多く、金利上昇が続くと売られる銘柄も多い可能性があります。しばらくは、東証1部などの大型株が相対的に優位な状況にあるといえるのではないでしょうか。
(文:松井証券 シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎 写真:ロイター/アフロ)