はじめに
今年は、3月末から「麻疹(はしか)」の流行が話題になりました。ここ数年は、「ワクチン1回世代」の感染が多いことから、日本の予防接種対策への関心も高まっているようです。
麻疹は、今や「誰もがかかる病気」ではない
麻疹ウイルスは感染力が強く、免疫を持たない人が感染すると、ほとんどが発症すると言われています。発症後数日で高熱や発疹が現れ、これらの症状は、通常7~10日間でおさまります。
しかし、全身の免疫力が低下するため、肺炎や中耳炎、時には脳炎を合併することがあり、1000人に1人の割合で死亡することがあります。2000年頃の日本においても、1年で20人ほどが亡くなっています 。また、妊娠中にかかると流産や早産を起こす可能性があると言われています 。
一昔前までは、麻疹は、誰もがかかる病気で、一度かかれば二度とかからないことから、子どものうちにかかっておくと安心、等と考えられていました。
しかし、今では、排除すべき深刻な感染症の1つと考えられており、WHO(世界保健機関)が中心となって、各国で予防接種対策が進められています。日本でも、予防接種政策により劇的に患者は減少しています。
図1 麻疹年間報告数の推移
日本の予防接種制度は先進国の中で最低レベルだった?
ところで、かつて日本が「麻疹輸出国」と言われていたことはご存じでしょうか。
日本は、乳幼児死亡率が低く、医療機関も整備されていることから、感染症への対応が進んでいる、と思っている人が多いかもしれません。
しかし、実は、日本の予防接種制度は、定期接種として低額(無料)で受けることができるワクチンの種類が少ないことにより、長らく諸外国と比べて遅れており、「ワクチンギャップ」があると言われてきました。
麻疹の予防接種についてみると、1966年に任意接種として導入された後、1978年に1回の定期接種が、2006年度に2回の定期接種が導入されました。諸外国を見渡せば、1999年にWHO加盟125か国の65%が、2005年に加盟国171か国の89%が2回接種を導入済みだったことから 、日本の2回接種導入は遅れ気味だったと言えるでしょう。
図2 麻疹ワクチンの定期接種(2018年4月1日の年齢)
(資料)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会「麻しん・風しん含有ワクチンの接種率と麻しん・風しんの発生動向」2013年8月を参考に筆者作成