はじめに

フリーランスとして仕事をする以上、さまざまな出費が発生します。『すべての領収書は経費で落とせる!』といったようなタイトルの本を本屋で見かけることもありますが、本当にすべての領収書を経費で落としてもいいのでしょうか。
 
経費が増えると税金の負担は軽くなります。というのも、「フリーランスのための確定申告の基本」でお伝えしたとおり、わかりやすく単純化した税金の計算方法は<収入-経費=所得、所得×税率=税額>だからです。

収入から差し引く経費が大きければ大きいほど所得が減り、税額は減少します。したがって、経費はたくさんあるに越したことはありません。ただ、そこで問題となるのが、どこまでが経費の範囲に含まれるのかということです。

経費になるもの、経費にならないものとしては、どのようなものがあるのでしょうか。今回はフリーランスになったら誰もが抱くであろう、それらの疑問にお答えしたいと思います。


仕事のために支払ったものはすべて経費になる?

経費にしてよいものは、法律上、次のように定められています。

1.総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用
2.その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用

この書き方を見てわかるとおり、法律は「これが経費になります」という具体的な書き方をしていません。

なぜかというと、種々の仕事にかかるすべての経費を想定して定めることは困難ですし、新しい仕事がどんどん生まれ、その仕事内容によって経費の範囲も異なるからです。納税者が事業のために使った費用を、解釈によって、柔軟に経費にできるように配慮されているのです。

したがって、経費として認められるのは、フリーランスとして“売上をあげるために支出した費用”と考えてください。誤解を恐れずに言うと、あなたが税務署に対して「これは確かに仕事のために支払ったものだ」と説明できるのであれば、原則としてすべて経費です。逆に言えば、あなたがプライベートのために払ったものは経費ではありません。

そのため、仕事のために払ったのなら、“すべての領収書は経費で落とせる!”と言うことができます。

経費になるもの、具体的には何?

フリーランスの場合、事務所の家賃や携帯代、インターネット接続などの通信費、パンフレットの作成費用などが経費になるでしょう。業種によって、経費になるものが変わってきます。たとえば、フリーライターなら次のものが考えられます。

・執筆のために購入した雑誌や書籍代
・パソコンやプリンター
・プリンターのインク
・コピー用紙
・文房具
・取材に使用するICレコーダー
・取材時に持参した手土産代
・取材のための交通費
・取材用のカメラ

事務所兼自宅の場合、家賃の何割が経費になる?

フリーランスの方は自宅と事務所が兼用のケースも多いと思います。その際、家賃や電気代はどのように考えたらいいのでしょうか。

その場合は、仕事とプライベートで「按分計算」をします。仕事用に使った割合はどのくらいかを決めて計算した金額を経費にするということです。按分の計算方法も、法律で決まりがあるわけではありません。その按分方法が、事業実態に合ったものだと合理的に説明できるのであれば問題ありません。

たとえば家賃の場合は、事業に使用している部屋数で按分したり、総平米数のうち事業スペースの平米数で按分したりする方法が考えられます。電気代の場合は、たとえば1ヵ月の総時間のうち、仕事をした時間を按分して計算する方法が考えられます。一度割合を決めたら、基本的には同じ割合で毎年継続して按分します。

仕事とプライベートで兼用のそのほかの経費についても、基本的には上記と同じ考え方で按分すれば問題ないでしょう。要は、業務上の経費として区分することができて、その区分方法を合理的に説明できればOKということです。

フリーランスが使用する勘定科目

前回の「実際のところ何するの?青色申告に欠かせない帳簿の作成」では、帳簿作成のお話をしました。帳簿をつける場合には、経費を「勘定科目」という科目ごとに分類して記録していくことになります。フリーランスで主に使われる勘定科目は以下の通りです。

【フリーランスが使う主な勘定科目と内容の例】

勘定項目内容(例)
専従者給与青色申告者が家族従業員(青色事業専従者)に支払った給料
荷造発送費ガムテープ代、梱包材料代、包装紙代
会議費会議室代、会議用の弁当やお茶代
諸会費同業者団体の会費、商工会・商工会議所の会費
接待交際費接待の飲食費、中元・歳暮代
広告宣伝費広告掲載料、看板、名刺・チラシ作成費用
旅費交通費電車・バス・タクシー代、宿泊費
賃借料パソコン・コピー機などのリース料
地代家賃事務所の家賃、駐車場代 ※親族に対して支払ったものは経費になりません
水道光熱費事業使用分の電気、ガス、水道料金
新聞図書費事業で使用した新聞・書籍購入費用
通信費電話料金、インターネット接続費用、郵便代
消耗品費事務用品、OA用品、オフィス家具
車両費(営業で使用する場合)ガソリン代、高速代
支払保険料火災保険、自動車保険
支払手数料振込手数料、税理士報酬
修繕費 OA機器保守費用、車検費用、パソコン修理代
租税公課事業税(全額)、固定資産税(業務用の部分)、印紙税 ※所得税・住民税や罰金などは経費になりません
減価償却費営業車、建物、器具備品などの償却費(使用に伴う価値減少分を使用可能期間で按分して費用にしたもの)
雑費事業に関して支払ったその他の費用

上の表は、あくまでも一例です。どの勘定科目に分類するかということに関して明確な決まりはありません。分類が税金の計算に影響を与えるものではありませんので、税務署から勘定科目について指摘されるということはほぼないと考えていいでしょう。

本来記帳は、税金を計算するためというより、事業の運営がうまくいっているかを数字で把握するためのものです。事業の運営上、どの勘定科目にするのが適切なのかをご自身で判断して分類してください。税法の基本的な考え方として、形式ではなく、実質で判断するというものがあります。その経費はフリーランスとしての仕事をするために支払ったものといえるかどうかという点で判断しましょう。

「経費で落とす」よりも大切なこと

最後に、税金を安くするために「経費をわざわざつくる」という考え方は危険です。経費というと、財布のヒモが緩みがちな方が多いようですが、いくら税金が安くなるからとはいえ、その分キャッシュが出ていきます。

大切なのは、事業を軌道に乗せて売上を上げていくことです。そのためにかかった必要な経費を漏れなく計上するというスタンスを、どうか忘れないでください。

この記事の感想を教えてください。