はじめに

海外からの買いのサインでもあった

海外投資家は、東証1部の現物株式売買代金の約6割を占めていますが、日経平均先物市場では取引代金の75~80%を占めています。彼らが日本株を買い越すときは、先物も併用するため、海外投資家の取引割合の高い日経平均先物のほうが日経平均よりも先に上がりやすくなります。

こうした動きが出ると、現物と先物の価格差を狙う投資家が現れ、割高な日経平均先物を売り、現物市場で日経平均構成銘柄を買う動きが出始めます。その結果、日経平均構成銘柄が全体よりも相対的に上がりやすくなります。

それを受けて日経平均がTOPIXよりも上昇し、NT倍率が上がるという連鎖が起きやすくなります。そのため、NT倍率が上がると、海外投資家が買い越しているサインといわれるわけです。

過去とは異なる足元の状況

冒頭で紹介した通り、NT倍率は1999年3月以来の高値圏のままです。従来の解釈だと、輸出株かハイテク株の主導による株価上昇局面か、海外投資家の買い越し局面で見られる現象ということになります。

1999~2000年のITバブル相場や2005~2006年の世界的な株価上昇ラリー、2013年前半のアベノミクス相場など、いずれの上昇局面よりもNT倍率が高くなっています。

しかし直近の日経平均は、いったん2万3,000円台を回復したものの膠着感が強まり、今週(7月第1週)は再び2万2,000円を割り込んでいます。海外投資家も大きく買い越しに動いてはいません。

1日当たりの売買代金は平均2.5兆円前後で推移しており、節目となる2兆円を下回る日はほとんどありません。とはいえ、「活況」というほどの盛り上がりは感じられません。

下がらないが上がらない理由

過去20年にはなかったNT倍率の上昇パターンですが、私なりに解釈してみました。それは「上昇は期待しにくいが、急落も心配しなくてよい。だから割安株に逃避するほどではない」ということです。

米国の通商政策や北朝鮮問題、イラン・イスラエルをはじめとした中東情勢など、心配事は複数残されたままで、解決の見通しは立っていません。日本・米国・中国の景気も減速はしていないものの、昨年までの力強さは感じにくい印象です。

一方、日米の企業業績は堅調で、大きく減速する兆候も感じられません。結果として、地政学リスクや米国リスクを考えると買いづらい局面ではあるが、大きく売られる局面でもないので、消去法的に割安株へのシフトが出にくくなっているのではないでしょうか。


割安株は放置される一方、好業績の値ガサ株は押し目買いが入りやすい状況か

つまり、株価全体が下がる懸念が小さいと見られていることで、割安株への資金逃避が起きず、割安株は割安なまま放置され続けている可能性があります。そして、割安株シフトがない副産物として、増収増益の続くハイテク株・輸出株は「下がれば押し目買い」ニーズが集まりやすくなり、結果的に下がりにくくなっているのではないでしょうか。

結果として、ハイテク株・輸出株の影響を受けやすい日経平均がTOPIXを上回る展開が続くことになり、NT倍率が(株価上昇局面でも海外投資家買い局面でもないのに)上昇していると考えられるのです。

NT倍率をはじめとする指標やチャートなどが示唆するサインは、過去の株価パターンが再現されることを前提に語られます。しかし、過去と異なる動きも普通に起きるのが相場です。

今回の場合は、過去とは異なるパターンとなっているように感じます。しかし、「好業績の銘柄は上がる」「業績が悪化した銘柄は下がる」という基本には沿っています。株式市場の評価基準が変わったわけではないと思います。

(文:松井証券 ストラテジスト 田村晋一)

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