はじめに
2年間の海外生活を終え、2ヵ月前から東京で生活をしていますが、いろいろなものの中身が少なくなったと思うことが何回もあります。コンビニエンスストアのお弁当やスナック菓子、牛乳やペットボトル飲料など、日常の中でよく手にする商品が軒並み小さくなった気がします。
皆さんはいかがでしょうか。今回は、この現象とそれがマーケットに与える影響を見ていきます。
日本で感じた違和感の正体
筆者が上記のような体験をした際、中身が少なくなった気がすると同時に、別の違和感を感じました。それは「値段は変わっていない」ということです。
中身が少なくなって値段も下がっているのであれば、それに対してさほどの違和感は感じません。しかし、中身が少なくなったにもかかわらず、値段は据え置かれているのはおかしいでしょう。
そんな違和感を持ちながら実際に統計データを見てみると、かなりの商品で同様の現象が起こっているようです。日本の消費者物価指数を発表している総務省のホームページを見ると、2012~2017年の5年間にジャムやふりかけ、アイスクリーム、マーガリン、チョコレートなど、主に加工食品を中心にこの事象が見られています。
このように、中身が少なくなったにもかかわらず、値段は据え置かれている現象を「実質値上げ」といいます。値段は変わらないのに中身は少なくなっているため、事実上は値上げをしているのに等しいからです。
少しうがった見方をすれば、中身を少し減らす分には消費者は気づかないだろうとコソっとやっているようにも思えるため、「ステルス値上げ」と呼ばれることもあります。こちらはレーダーに探知されにくいステルス戦闘機からきています。
消費者は値上げに気づいている
5月の全国消費者物価指数(生鮮食品・エネルギーを除く)は前年比+0.3%と、3ヵ月連続で上昇率が縮小しました。季節調整値で見ると前月比で変化なしですが、それまでは2ヵ月連続でマイナスとなっており、日本の物価は依然としてほとんど上昇していないことがわかります。日本銀行の掲げるデフレ脱却はかなり厳しい状態にあるといえます。
このように物価が上昇しづらい環境にあるにもかかわらず、日銀が発表している「生活意識に関するアンケート調査」を見てみると、消費者は物価が上昇していると感じており、かつ将来的にも物価が上昇していくと考えていることがわかります。
この理由の1つとして、実質値上げの影響も挙げられるでしょう。
統計には反映しきれないステルス値上げ
総務省は、実質値上げに関しては消費者物価指数に反映しているとしています。
たとえば、調査対象の商品が値段は据え置きのまま、容量が165グラムから150グラムに減らされた場合、調査対象商品の価格には1.1(=165÷150)を乗じてCPI(消費者物価指数)を算出するため、値段が据え置かれている場合はCPIが10%上昇する計算になります。ちなみに、生鮮魚介や生鮮野菜などに関しては、100グラム当たりや1キログラム当たりという形式で重量換算して計算をしています。
しかし、たとえば「外食」などでは「1人前」という単位で計算をしているため、値段を据え置いたまま減量されてしまうと、そのステルス値上げは反映されなくなってしまいます。
また日本では、違う形でのステルス値上げも少しずつ増えているように感じます。
アジア各国に住んでいた筆者からすると、日本は無料の付加価値提供が多いと感じます。しかし、もしサービス提供側が経済的に苦しいながらも、値上げによって顧客が離れていくことを恐れるとすると、値段を据え置く代わりに、これまで無料で提供していたサービスをやめると思われます。その場合も、事実上は値上げになるわけですが、このようなケースも統計には反映されないのです。