はじめに

4~6月期の決算発表が本格化しています。これまでのところでは、良い決算と悪い決算が入り交じる、という印象ですが、実は何をもって「良し悪し」とするかは案外難しいものです。単に増益なら良い、減益ならダメ、というものではありません。

ポイントは、増益率の大小だったり、市場のコンセンサス対比で上振れたか下振れたかだったりします。その結果、好決算を発表したにもかかわらず、株価が下落することがあったり、その反対に冴えない内容の決算なのに株価が上昇することもあります。


好決算でも株安になるカラクリ

ファナック(証券コード6954)やカルビー(2229)などは好決算でも売られた例です。ファナックの2018年4~6月期の決算は増収増益となり2019年3月期通期の見通しも上方修正しました。が、米中貿易摩擦の激化やスマートフォン向け投資減速の影響で、受注高が前年同期比で14%減。特に中国が34%減と大きく減少し、業績の先行きを懸念した売りに押されました。

カルビーも4~6月期の純利益は同84%増と、ジャガイモの不作で苦戦した前年同期から比べれば大きく立ち直りましたが、主力のシリアル「フルグラ」の国内販売が苦戦したことなどで先行きを不安視する見方が広がり、売られました。

ファナック同様、日本電産(6594)は4~6月期として最高益を更新し、通期見通しを上方修正しました。それにもかかわらず、株価は下落しました。東京エレクトロン(8035)、日立建機(6305)、コマツ(6301)、日立製作所(6501)も好決算にもかかわらず売れられました。

これらに共通するのは「優良企業」のレッテルです。文句なしの好決算でも売られたのは、優良企業ゆえにこの程度の決算では市場が物足りなさを感じたためでしょう。市場の期待が高すぎたともいえます。

要注目はソニーと任天堂

ここで注目したいのが、昨日決算を発表したソニー(6758)と任天堂(7974)です。今日8月1日の午前の取引でソニーは前日比315円(5.4%)高の6,143円まで上昇し、年初来高値を更新しました。昨日の決算発表で同社は2019年3月期通期の純利益を前期比2%増の5,000億円と上方修正しました。従来予想の2%減益から一転増益となり、大幅高となりました。

任天堂も前日比2290円(6%)高の3万9,050円まで上昇する場面がありました。4~6月期の純利益が前年同期比44%増の306億円と、市場予想を大幅に上回ったことが好感されました。

好業績で株高、というのはいわば当たり前の反応なのに、あえてソニーと任天堂に注目したのにはワケがあります。両社の好決算を受けた新聞報道が、手放しで誉めるというトーンではなかったからです。

ソニーについては、ゲームと音楽は好調だが映画が苦戦している、と報じられました。任天堂も、ゲームソフト「ニンテンドーラボ」が起爆剤にならずスイッチが減速している、と書かれました。

全体は好決算なのに「1つの懸念・悪材料」があるだけで株価が下落するというファナックやカルビーの例があっただけに、ソニーと任天堂の報道は気がかりでした。ところが、市場はそんな懸念を振り払ったかのように、大きく両銘柄を買い上げました。相場のムードが変わったように思います。

冴えない決算でも値上がりしたのは?

今度は反対に冴えない決算でも株価が上昇したケースです。ヤクルト本社(2267)、大同特殊鋼(5471)、武田薬品工業(4502)はコンセンサスを上回って買われた典型例です。

ヤクルトの営業利益は減益ではありませんがわずかな増益、大同特殊鋼と武田薬は減益だったものの、ともに市場予想を上回ったことで買われました。

商船三井(9104)の2018年4~6月期は燃料価格の上昇などが響き、最終損益が16億円の赤字(前年同期は52億円の黒字)でした。一見すると良くない決算に思えますが、「コンセンサス対比上振れ+上方修正」という最強パターン。

2019年3月期通期の営業利益を前期比10%増の250億円と、従来予想である同1%増の230億円から上方修正し、かつコンセンサスの239億円も上回ったことで株価は急伸しました。

実質赤字でも株価上昇のLINE

微妙なのは、LINE(3938)です。営業利益は前年同期比45%減の103億円でした。減益だったもののコンセンサスの60億円を大幅に上回り、軟調だった株価は翌日に一時8%高まで上昇しました。

よくみれば利益の大半は一時的な評価益で、4~6月期では実質営業赤字でした。それでも、スマートフォン決済事業「LINEペイ」の取り組み進展に期待が集まり、高評価につながったようです。これは、全体の決算が好調でも1つの材料で先行きが不安視されたファナック、カルビーなどの逆のパターンでしょう。

このように決算の評価というのは一筋縄ではいかないものですが、その難しさも株式投資の醍醐味の1つであると思われます。

(文:マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木隆)

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