はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は前野彩氏がお答えします。

これから結婚を考えておりますが、年収550万円ほどで、貯金は100万円もない状況です。月収は手取り25万円前後です。子育て、老後を考えると、この先が憂鬱です。絶対に共働きでなければ、生活していくのは無理だと考えています。そこで、共働き前提で今後、収入の何割を貯蓄に回せばいいのかなど、お金の育て方について教えてください。
(40代前半 独身 男性)


前野: これから結婚を考えていらっしゃるとのこと。おめでとうございます! 人生100年と言われる時代です。これからの人生約50年を一緒に過ごされる方と、十分に「お金の見える化」を図ってくださいね。

まずは、手取り収入の把握を

ご相談者さんの年収は550万円とのことですが、手取り収入を把握していらっしゃいますか。
 
ここでいう「手取り収入」とは、年収から、法律上天引きされることが決まっている社会保険料(厚生年金料・健康保険料・介護保険料・雇用保険料)と税金(所得税・住民税)を差し引いた金額です。
 
年収550万円の手取り収入は、約8割。つまり、約440万円が手取り収入として使えるお金です。その440万円の中から、食費や水道光熱費、通信費、交通費、住居費、保険料、お小遣いなどを支出し、老後の貯蓄を行い、結婚後は共働きの収入を活かして、子どもに必要な教育費をやりくりしていくことになります。

結婚された後は、ご夫婦の収入や貯蓄も「見える化」していきましょう。なお、現在の貯蓄は100万円とのこと。収入と年齢から想像すると、収入の多くを支出している状況がうかがえます。まずは、手取り収入を把握し、使っている金額を意識してみましょう。

「貯蓄は収入の何割」の呪縛から卒業を

「住居費は月収の○割まで」「お小遣いは年収の○割まで」などと、世の中にはいろんな“目安”が存在します。でも、それらは本当でしょうか。

わからないことを始める際、目安があると便利ですし、目安を守っていればひとまず安心な気がします。でも、大事なことは、かける支出と引き締める支出のメリハリです。

たとえば、アニメがとっても好きで、年間にして何十万円ものお金をアニメグッズにかける方がいらっしゃいます。興味がない人にとってはムダ使いのように見えますが、その方にとっては「住むところ、食べるもの、着るものは最低限でいいから、その分浮いたお金をアニメにかけたい」と思って、メリハリをつけています。

同じように、「住むところも、洋服も安くていい。でも、食事だけは高くても美味しいお店で食べたい」というのであれば、1カ月の食費が6万円でも8万円でも問題ありません。

でも、「住むところも便利なところがいいし、洋服もやっぱりちゃんとしたものを着たいし、食事もせっかく彼女と食べるのなら高級店へ……」と幅広い項目に、「これぐらいは普通だから」「みんなやってるから」という感覚を持ち込むと、お金がいくらあっても足りなくなります。

あなたの今までのお金の使い方は、メリハリタイプになっていますか。自分にとって大事な支出を確認し、優先順位の低い支出から見直して、浮いたお金を貯蓄していきましょう。

2つの必要な貯蓄額とその育て方

共働き前提で貯蓄を考えていくとのこと。子育てや老後のために貯蓄をしつつ、夫婦や家族で楽しくお金を使うためには、「いつ」「何に」「いくら」必要かという具体的な目標が大切です。そこで、ご相談者に発生する2つの目標においての貯蓄額を出してみましょう。

1.教育資金の準備

教育資金の準備は、「子どもの大学費用を想定して貯めるお金」と、「子どもの成長に伴って今、出ていく支出」の2つが同時に発生します。

子どもの大学費用を想定して貯めるお金は、まずは国公立大学の費用分として、子どもが生まれたあとに国から受け取る児童手当をすべて貯めます。これで合計約200万円が貯まります。

私立大学に行くときの費用を親が出してあげたい場合は、子どもが生まれたときから18歳になるまで月1万円を上乗せします。これで約200万円が貯まり、児童手当と合わせて約400万円が準備できます。進んでほしい進路に、私立理系や留学がある場合は、さらに月1万円増額して貯めましょう。

そして、子どもの誕生と同時にかかるのが、子どもの成長に伴って今、出ていく支出です。

保育料は親の所得や自治体によって変わりますが、共働きでは月額5~6万円かかることもよくある話。子どもが生まれたら、私立大学用の貯蓄月額1万円と、保育料が月額5万円かかると仮定して、結婚後は月額6万円を貯められる家計を目指しましょう。

2.老後資金の準備

厚生年金の平均受給額は、男性で月額約16.7万円、女性は10.3万円です(平成28年度厚生年金・国民年金事業の概況より)。夫婦で27万円を目安とした場合、結婚後の老後の生活費は、この範囲で収まりますか。収まる場合はひと安心ですが、「家賃を考えたら足りない」という場合は、不足分を現役時代の間に貯めておく必要があります。

今はまだ、結婚後の生活費のイメージがわきにくければ、自分の分だけでもいいので想像してみましょう。

数字を単純化すると、老後の年金の目安が17万円、現在の支出を25万円とすれば、月額8万円のマイナスです。男性の4人に1人は90歳まで生存し、65歳の年金受給から平均余命まで25年あるため、単純計算では[25年×12カ月×8万円]で、65歳になるまでに2,400万円の貯蓄が必要になります。

老後の貯蓄や退職金がある場合は、この額から差し引くことができますが、現在の貯蓄100万円は結婚資金などに使う可能性が高いため、ここには含めません。現在45歳とすると、あと20年で2,400万円を準備することになるため、年間120万円の貯蓄が必要です。これだけでも年収の約2割ですね。

根拠がわからないままに一般論で「年収の○割を貯蓄」と考えるよりは、このように、自分の収入と支出に応じて計算するほうが、真剣度が増すはずです。自分の場合、結婚後の共働きの場合と考えてみてくださいね。

教育資金の準備には、つみたてNISAが使えますし、老後資金ならばiDeCo(個人型確定拠出年金)が適しています。貯める目的によって適した商品は変わりますから、まずは「いつ」「何に」「いくら」必要かということから、逆算の方法で貯蓄をスタートさせましょう!

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