はじめに
「あー、そっち行ったー」「おーっと、取れなーい」
床に座り込んだ男女12人が、ネットを挟んで向かい合います。その間を飛び交うバレーボール。コートの中には、オリンピックにも出場経験があるVリーグのパナソニック・パンサーズ所属の清水邦広選手や福澤達哉選手の姿もあります。
彼らが汗を流していたのは、2020年の東京パラリンピックでも実施競技として採用された、シッティングバレーボール。8月22日に開かれた、リクルートマネジメントソリューションズ(RMS)による「パラバディ研修 記者発表会」での一幕です。
パラ五輪への興味関心と観戦意向を高めるという触れ込みの、パラバディ研修。RMSがこの研修サービスを始める狙いとは、何なのでしょうか。気になる研修の中身とともに取材しました。
2時間の研修で障害体験
RMSが監修を務めたパラバディ研修。これまで同社が培ってきた企業向けの人事研修でのノウハウを活用し、ダイバーシティ(多様性)を促進する企業向けに展開していく予定です。そのコンセプトは「パラレルな個性を生かしてバディ(仲間)になろう」(RMSの藤島敬太郎社長)だといいます。
研修1回当たりの所要時間は2時間。10分間の導入の後に、40分間の車イスを使ったアクティビティを実施します。5分の休憩を挟んで、後半は視覚障害を体験するアクティビティが40分、座学が25分というスケジュールになっています。
最初の導入では、研修の目的を押さえ、この後に控えているアクティビティや座学に対する意識を高めます。1回目のアクティビティでは、立った状態と車イスに座った時との視点の違いや、ちょっとした段差を越える難しさを体験。健常者からのサポート方法についても学習します。
実際にどんな体験ができる?
説明会の後に開催された模擬研修では、まず初めに車イスの操作方法について説明があった後、2人1組になって、実際に操作する時間が取られました。半周はパートナーに押してもらい、残りの半周は自分で操作して、会場を1周。その後に段差を越える体験がありました。
模擬研修では、リクルート所属のパラ五輪選手が参加
続く2回目のアクティビティは視覚障害体験。6人の参加者が目隠しをして、自分の誕生日を叫びながら生まれた順番に円形に並んだり、視覚障害者が使う白杖の使用方法などにつて学んだりしました。
最後に、まとめとして座学で、障害者が感じている日常の困り事やスポーツをする難しさ、パラ五輪競技などについて学びます。
「障害に対する心理的なハードルを下げ、身近なものとしてとらえてもらえるよう、組み立てています。座学で競技のルールなどを理解しながら、アクティビティで障害者の方の視点や苦労を体感できるので、パラ五輪に対する見方が変わると思います」(RMSの小川明子さん)
ちなみに、冒頭で触れたシッティングバレーの体験は、説明会当日だけのプログラム。参加した福澤選手は「競技にかける熱い思いは、五輪もパラ五輪も変わりません。競技特性やルールは違いますが、背後にそこにたどり着くまでのストーリーがあるのは同じ。そこに注目して観戦してほしい」と語りました。
パラ五輪への関心を高められるか
2012年のロンドン大会、2016年のリオデジャネイロ大会では、ともに200万枚以上のチケットを売り上げたパラ五輪。ですが日本国内では、まだそこまで関心度が高まっているとはいえない状況です。
東京都が実施した世論調査によると、障害者スポーツに関心があると答えた人の割合は2015年から2016年にかけて44.9%から58.0%に急伸しました。しかし、2017年は57.1%と頭打ちに。同じ調査で東京大会の観戦意向について聞いたところ、競技会場で直接観戦したいという回答は、五輪だと42.1%に上った反面、パラ五輪では18.9%にとどまりました。
6割弱が関心を示すが、伸びは頭打ち
この背景について、RMSは「選手やルールを知らない」「障害者に接する機会が少ない」という2つの理由があると見ています。パラバディ研修を通じて、この2つの課題を解消していきたいというのが、RMSの狙いです。
現在はまだ、ホームページで申し込みができるよう、整えている段階。「できるだけ早めにスタートしたいと思っています。どんな企業に導入していただけるかは、これからになります」と、前出の小川さんは現状を説明します。
パラバディ研修を2020年以降も残っていく人材のレガシー(遺産)にしていきたい――。そう語るRMSの願いは成就するでしょうか。まずはパラバディ研修自体の知名度をどれだけ引き上げられるかが、最初の勝負となりそうです。