2018年7月末、中国政府は今年下半期の重要政策の基本方針を発表しました。足元の経済情勢について「新たな問題や挑戦に直面し、外部環境には顕著な変化が生じている」と分析。米中貿易摩擦などを念頭に、中国では景気の下振れリスクが高まっているとの認識を示したのです。

こうした見地から、今年下半期について中国政府は、経済や社会の安定を重要視する事を明らかにしました。具体的にどのような対策をとるのでしょうか。


中国政府は景気重視を鮮明化

中国政府が明らかにした今年下半期の経済政策は、主に3つです。まず1つ目は、これまでの税負担軽減策に加え、研究開発費の税控除の範囲を拡大すること。また、建設中のインフラ工事の早期竣工を目指す事なども盛り込まれています。これは「積極的な財政政策をさらに積極的」に実施する事を意味しています。

2つ目の金融政策に関しては、「穏健中立」から「穏健」への変更を表明しました。中国語の「穏健」とは若干の引き締めから若干の緩和までを含む幅広い概念ですが、今回の変更は「中立」から「若干の緩和」への変更を意味しています。

3つ目は、小型・零細企業へのサポート強化です。これはすでに2018年4月、7月に実施した預金準備率の引き下げなどですでに実施されています。今後も預金準備率の引き下げを引き続き実施するとの見方もあり、中国政府は構造改革を一時的に棚上げして景気重視に軸足を移し始めているようです。

「金九銀十」との相乗効果を期待

政府が景気を下支えする方針を示すなか、中国では9~10月は「金九銀十(金の9月、銀の10月)」と呼ばれ、消費が活発になる時期を迎えます。毎年この時期に合わせて不動産や自動車業界などは新プロジェクトや新モデルを多く発表されるため、不動産や自動車の販売が盛り上がる傾向があります。

そうしたなか、8月10日に上海市では初回住宅購入に適用される住宅ローンについて、一部銀行が実質的な金利引き下げを決定した事で、不動産株が動意づきました。また、9~10月には「中秋節」や「国慶節」など大型連休が控えており、観光関連銘柄も恩恵を受けると思われます。 

2017年の中国全体の可処分所得は、前年比7.3%増の2万5,974元と持続的に伸びています。加えて2010年以降は、農村部の伸び率が都市部を上回る状況が続いており(下図)、以前に比べて中国では消費のすそ野は着実に広がっています。

米中貿易摩擦が中国株式市場の重荷に

中国政府が景気重視へと政策転換した背景には、やはり米中貿易摩擦に対する先行き不透明感が理由として挙げられます。2018年3月以降、米中貿易摩擦はエスカレートしており、現時点で両国とも落とし所を見いだせていません。

米国側では中国への強硬姿勢が支持率向上に繋がっている側面もありますので、しばらくは強硬姿勢が継続すると思われます。また市場では、米中貿易摩擦に対する「先行き懸念」や「不透明感」がある程度払拭できない限り中国株式市場の反転上昇は期待できない、との見方が優勢です。

9月は中国・香港市場の転換点になる?

そうしたなか、米議会の上院超党派グループがトランプ大統領による追加関税の乱発に対して、通商拡大法232条に基づいて阻止する動きを見せ始ました。こうした超党派、つまり与党共和党内からもトランプの追加関税乱発阻止に向けた動きが出ている点は、注目に値すると思います。

また、財界ロビー団体である、米企業の最高経営責任者(CEO)で構成される「ビジネス・ラウンドテーブル」はこの超党派による関税拡大阻止の動きを支持する考えを明らかにしています。こうした傾向が議会あるいは産業界でより強まって行けば、トランプ大統領の追加関税の乱発に、少なくとも一定の歯止め効果となるとの指摘もあります。

また、トランプ大統領は9月の米議会再開・中間選挙に向けた予備選終了後から、浮動票を獲得するため「通商」ではなく、「減税」や「インフラ投資」などに力点を移す可能性があるとの指摘もあります。

9月に米国が2,000億ドルの追加関税を発動あるいは回避し、その後に新たな追加関税が出てこなければ、アク抜け感から中国・香港市場は一時的に反転する可能性が高いと見ています。中国・香港市場は「米中貿易摩擦」懸念から、ここ数か月大きく売り込まれているだけに、仮に相場環境が好転すれば戻り足は速い可能性が高いと考えられます。

(文:アイザワ証券 市場情報部 佐藤一樹)