はじめに
自分好みの家具やインテリアを自分で作る「DIY(Do It Yourself)」。最近はテレビ番組などで取り上げられる機会も増え、目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
リクルート住まいカンパニーの調べによると、このDIYを実施した経験のある人の割合が過去最高を更新。2割近くまで高まっていることがわかりました。
もちろん、そこにはテレビなどでの露出の増加が与えた影響も小さくないわけですが、それ以外にも理由があるようです。賃貸住宅市場で今、何が起きているのでしょうか。
“隠れカスタマイザー”が増加
リクルート住まいカンパニーが9月5日に公表した「2017年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)」。2017年4月~2018年3月に首都圏で賃貸物件の契約をした18歳以上の男女約800人を対象に、最新の賃貸住宅市場の動向をまとめたものです。
これによると、DIYやカスタマイズを実施した経験がある人の割合は18.9%と、過去最高を更新。2015年度の9.6%から2倍近い水準まで高まっていることがわかりました。
同社の池本洋一SUUMO編集長は「部屋の原状回復義務があるのでいじらない、というのが昔。今は原状回復する前提でもいじる人が2割まで来ています。隠れカスタマイザー、隠れデコラーが増えていると考えられます」と指摘します。
テレビ番組では、タレントのヒロミさんや森泉さんがプロ顔負けのテクニックでDIYに取り組む様子が放送されるなど、数年前よりもDIYの露出機会が格段に増えています。また、ユーザーがDIYの成果を公開するアプリも登場。女性をターゲットにしたDIY専門店も出てきています。
築年数のマイナスをDIYで補う
ただ、今回の調査をつぶさに見ていくと、DIY比率の上昇はメディアなどでの露出機会の増加だけではなさそうです。
同じ調査の中で、部屋探しの決め手になった要素、あきらめた要素を聞いた質問において、7割近くが決め手と考えたのが「家賃」でした。それに続く要素としては「路線・駅やエリア」「最寄り駅からの距離」「通勤・通学時間」といった立地条件に関するものが上位に並びました。
一方、あきらめた要素でトップだったのが「築年数」。3割近くの人があきらめたという結果が出ています。
立地条件を重視すると、どうしても家賃が上がってしまうもの。しかし、家賃は家計に占めるウエートが大きいため、できれば抑えたいところ。その結果、立地さえ良ければ、築年数が古い物件でもOKという人が増えている、というわけです。
とはいえ、築古の物件だと、どうしても設備は古い時代のものがそのまま使われていることが多くなります。そこで、自分で設備をカスタマイズすることで少しでも住みやすい環境に変えようというのが、DIY比率上昇の裏側にあるもう1つの事情と考えられます。
機能追加型のDIYが主流
こうした状況は、実施したことがあるリフォームの内容とも合致しています。DIYといえば、テレビなどの影響から、壁を塗ったり、壁紙を張り替えたりという印象が強い人が多いかと思います。
しかし、リクルート住まいカンパニーの調査によると、最も多かったのは「壁に収納・飾り棚やフックを取り付ける」で34.7%。他にも、「バスルームのシャワーヘッドを交換する」「トイレを洗浄便座にする」といった機能追加型のDIYが上位に入っています。
こうした状況を、SUUMOの池本編集長は「住宅の機能不全に対する機能追加を入居者が自ら行っている」と分析します。
実際、築年数が古い物件を中心に「DIY可」の物件が増えてきているといいます。ただし、こうした物件もSUUMOに掲載されている全物件に占める割合としては1~2%どまり。入居者のニーズに対し、物件オーナーの意識変革が追い付いていない状況です。
池本編集長は「入居者は部屋の価値を上げてくれる“パートナー”と考えるべき」と指摘します。そのうえで、「入居前と退去前のコミュニケーションが物件の付加価値を上げるためのチャンス」と説きます。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、首都圏でも2025年以降は世帯数が減少に転じる見込み。空き家数の増加が懸念される中、物件オーナーにとっては、入居者との二人三脚で物件の価値を上げていくことが、“家余り”の市場で生き残るヒントになるのかもしれません。