はじめに

猛暑の季節が終わり、秋の陽気を感じられる頃になると「人事異動の話題」がオフィスでもささやかれるようになります。10月の人事異動の時期になりました。内示の後、着任まで期間の長さは企業により異なりますが、異動を伝えられた後、何だかソワソワとして落ち着かない……といった経験をされた方もいると思います。

筆者も転勤や組織異動が多く、実に20を超える組織を経験しました。人事異動があり、上司や同僚が代わると最初は緊張感があり、職場に馴染むのに多くのエネルギーと時間を費やしていました。同じような経験をしたり、人事異動を受けて不安になったりしている人もいると思います。

ビジネス本には「配属先でのマナー○○箇条」というように異動者自身のスキルに関するものが多いのですが、今回は受け入れ側の立場でいかに転入者を迎え、早期に馴染んでもらうかをテーマに、行動科学を使ったコミュニケーション手法をご紹介します。


3割が対人関係にストレス

新たな仕事や職場環境に異動することには少なからずストレスが発生します。厚生労働省が全国約1.8万人を対象に行った「平成28年 労働安全衛生調査(実態調査)」 によれば、現在の仕事に強い不安、悩み、ストレスを持つ人が全体の59.5%に上りました。

そのうち30.5%が「対人関係」を、26.8%が「役割・地位の変化等」をストレスの理由として挙げています。特に30代を過ぎてからストレスを感じる度合いが高くなるという結果が出ています。これが馴染みのない業務やメンバーであれば、なおさらです。

今回は、1970年代にデイビッド・メリル博士らが提唱をした「ソーシャルスタイル理論」を応用して、異動による転入者のスタイルによって、受け入れ側がどう対応するのが望ましいか、考えてみます。

この理論は人の性格がある特徴的な行動に表れることを発見し、行動傾向から個々人に対しての適切なコミュニケーションの方法を把握するというものです。相手の言動を「感情を表す/抑える」と「意見を主張する/聞く」の2つの観点から相手を4つのスタイルに分類し、相手にとって好ましいコミュニケーションをとることで、相手に受け入れられる度合いを高めることができるようになります。

自身そして周囲のソーシャルスタイルを理解し、どのような職場のコミュニケーションをとるべきかをお互いに気遣えるようになると、コミュニケーションの精度が高まり、組織としての生産性は格段に向上します。行動科学の研究として開発されたこの理論は、現在では多くの企業で個人のスキルや組織のパフォーマンスを高めるために応用されています。

4タイプ別の傾向と対策

ソーシャルスタイルは以下の4つに分類されます。

■アナリティカル(Analytical)

自分からあまり話をせず、詳細な情報を集めてからじっくりと仕事をするスタイル。いわゆる「マジメな人」という印象です。新しい職場に配属されると、すぐに打ち解けるよりも、一定の距離を置きながら時間をかけて少しずつ理解をしていくスタイルです。


このスタイルの転入者を受け入れるポイントは「情報開示」です。業務マニュアルや参考情報をできるだけ渡しておくと、安心して業務に取り組めるようになります。一方で、転入者に対して「相互理解が大事だから!」と称して、無理な自己開示を迫ることや過度な飲み会召集などは逆効果で、ドン引きしてしまうこともあるので注意が必要です。

■ドライビング(Driving)

決断が早く、いつも合理的な判断をするが感情を表に出さないスタイル。いわゆる「デキる人」という印象です。新しい職場に配属されると、業務内容や自身への期待を早く理解して、仕事を前に進めたいと考えるスタイルです。


このスタイルの転入者を受け入れるポイントは「ミッションの明確化」です。組織の方針、業務内容、各人の役割などを明確にすると、スピード早く仕事に適応できるようになります。一方で、転入者に対して目的を伝えず、「そのうち分かるよ!」といった抽象的な説明が続くと、イライラしてしまうこともあるので注意が必要です。

■エミアブル(Amiable)

いつも笑顔で相手の気持ちを大切にし、支援的な行動をとるスタイル。いわゆる「イイ人」という印象です。新しい職場に配属されると、まずは自身が受け入れられるように周囲に気遣い、業務以上に人間関係を優先するスタイルです。


このスタイルの転入者を受け入れるポイントは「場の安心感」です。ちょっとした声がけや、他の部署への紹介など人とのつながりを作ると、喜んで仕事ができるようになります。一方で、転入者に対して「新たな視点で問題点をどんどん指摘して!」というようなネガティブフィードバックを求めると、困惑してしまうこともあるので注意が必要です。

■エクスプレッシブ(Expressive)

話好きでいつも大らか、気持ちが表情に出やすいスタイル。いわゆる「オモシロイ人」という印象です。新しい職場に配属されると、自ら周囲に声をかけ、瞬く間に組織に馴染んでいくスタイルです。


このスタイルの転入者を受け入れるポイントは「登場場面づくり」です。発表やディスカッションなど転入者が自己アピールできる機会を与え、賞賛されるとモチベーションが高まっていきます。一方で、転入者に対して「しばらくマニュアルでも読んでおいて!」など1人で黙々と作業をさせると、悶々としてすぐに飽きてしまうこともあるので注意が必要です。

うちの部署の新顔はどのタイプ?

以下のチェックシートをもとに転入者や自分自身のソーシャルスタイルをチェックしてみましょう。特にスタイルの異なる同士だと、コミュニケーションのギャップが生まれる可能性が高くなりますので、前述の通り、相手のスタイルを意識した対応をすることが必要となります。

某企業では組織メンバー全員のソーシャルスタイルを壁に貼り出し、目に見えるところに開示することで、お互いのスタイルを尊重したコミュニケーションをとるようにしています。

今回お伝えしたソーシャルスタイル理論は1つの便利なツールではありますが、コミュニケーションの基本は「相手の立場に立つ」という気持ちがあってこそ。この秋に転入者の受け入れを予定している組織の皆さんは、ぜひ転入者の立場やスタイルを踏まえて対応をしてみてください。

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