はじめに
営業利益よりも重視するもの
上場後初の本決算となった2018年7月期の売上高は前期比45%増の111億円、本業の儲けをしめす営業損益は前期の11.4億円の赤字から9,300万円の黒字になりました。今期計画は売上高のみ公表していて、前期比30%増の145億円です。
提携先の印刷会社の数は公表していませんが、KPI(重要業績指標)として累計顧客数、購入回数、そして単価は継続公表しています。2018年7月末時点の顧客数は66万1,815。前期末時点では45万2,940、その前は29万3,689でしたから、2年で倍以上に増えた計算になります。
損益面では、営業利益よりも売上高と売上総利益を重視すると言っています。
ラクスルは顧客から印刷業務や配送業務を請け負い、それを全国の印刷会社や運送会社に下請けに出しているので、売上高は顧客からの受注金額満額を計上する形になっています。プラットフォーム運営会社ではありますが、プラットフォーム利用料を売り上げ計上する形は取っていないのです。
売上高は「顧客からの信頼の総和」であり、売上総利益は「顧客、サプライヤーへの付加価値の総和」だというのが、会社側の説明。顧客がラクスルに支払った対価と、サプライヤーがラクスルから受注した金額の差額が売上総利益です。顧客もサプライヤーもその価格に納得した結果、ということなのでしょう。
厳密に言えば、サプライヤーへの支払いに加え、システム投資にかかる減価償却費も原価ですが、原価に占める割合は1%前後に収まっています。営業利益よりも売上総利益だと言う理由は、販管費、中でも広告宣伝費です。これはラクスルの知名度を上げる、つまり成長投資という考えに基づいています。
足元の株価は公募価格の1.8倍
同社株価の9月14日の終値は2,746円。上場時の公募価格1,500円の1.8倍です。PER(株価収益率)は利益予想を会社が公表していないので計算不能ですが、PBR(株価純資産倍率)は11.33倍と高水準です。
上場以前からこの会社がプロの投資家から高い評価を得てきた最大の理由は、自分の会社を説明する能力の高さにあるのではないか、と筆者は思っています。
ホームページ上にアップしている決算説明会の動画をご覧いただくとわかるのですが、ビジネスモデルがわかりやすく、実際に業績が右肩上がりだというだけでなく、成長戦略について、プロの投資家が納得できるだけの説明ができているのです。
新進気鋭のベンチャー経営者の多くは、ビジネスモデルの説明はできても財務の説明ができなかったり、あるいは逆に、財務には強いということをアピールしながら、横文字言葉を連発するだけで意味不明、自分の言っていることが理解できないのは頭が固くて古いせい、と言わんばかりの人が少なからずいます。
が、この会社はビジネスモデルがわかりやすいうえ、今後何を目指していくのかの説明も明快なのです。
投資対象としては中~上級者向き?
それは経営陣の出自によるところが大きいのかもしれません。創業社長の松本氏は33歳の若さですが、世界的に有名な経営コンサルティング会社A.T.カーニーの出身です。このほか、CFO(最高財務責任者)は世界的な投資会社カーライル、COO(最高執行責任者)は世界的に有名な経営コンサル会社のボストン・コンサルティング出身です。
この顔ぶれで煙に巻くような説明をされると失望も倍増しますが、投資家がどういう説明を必要としているのかをよく理解している人たちが、誠実に説明をしている印象を受けます。
ラクスルは印刷業界、運送業界以外にもこのビジネスモデルを広げていくと言っています。顧客の増加に比例してシステム投資負担も重くなっていくでしょう。
今のところ、稼いだ利益は成長投資に回していくとも言っています。上場したばかりで配当方針は明らかにしていませんが、早期の配当開始は期待できない可能性があります。
今後競合が出てくるのかどうか、出てきた場合も圧倒的な優位性を保ち続けることができるのかは、現時点ではわかりません。すでに株価が相当高いということも含め、投資対象としては中~上級者向きの銘柄といえるのではないでしょうか。