はじめに
日本郵政グループの日本郵便とかんぽ生命が中心となって高齢者の生活支援サービスの新会社が設立されることになったそうだ。創業メンバーは他には日本IBM、NTTドコモ、セコム、綜合警備保障、第一生命、電通の名前が挙がっている。
生活者の高齢化が進む中、買い物難民や孤立する高齢者が問題になっているが、新会社の新サービスはこのニーズにどう対応していくのだろうか?
8社共同で高齢者支援の新会社を設立
日本郵便が中心となる新会社のサービスでは、郵便局員が高齢者の家を月1回訪問し、30分ほど会話しながら健康状態や生活の状況を確認してくれるそうだ。日本IBMが開発する高齢者向けに操作を簡単にしたタブレット端末で地域のスーパーや商店街で商品を注文できるようにして、それも郵便局員が届けてくれることになる。
今後、団塊の世代の高齢化が進む。現在75歳以上の高齢者人口は1600万人ほどだが、これが2030年には2300万人まで増加すると言われている。人口需要予測は未来予測の中でも確実に当たる予測のひとつだ。だからこのようなサービスの需要は今後、確実に高まっていく。
その一方で実は高齢者支援ビジネスには難しいところもある。具体的に言うと、一定の確率で不慮の事態が起きること。同様に一定数の認知障害を持つ顧客に対応しなければならないこと。そして、こういった高齢者の弱さにつけこんだ不正が起きること。こうした難しさがあることで、高齢者ビジネスは社会問題を起こしたり、事件化することも少なくない。
新会社はこのような困難を乗り越えることができるだろうか?可能性を検討してみよう。
不慮の事態に何が問題になるのか?
具体的なケースを考えてみれば高齢者ビジネスの難しさがよくわかる。まず不慮の事態から考えてみよう。
巡回サービスでいつものように高齢者のお宅に巡回員が訪問したとする。高齢者の方が普段と変わらない健康なときなら問題ない。そうでなかったときにどうなるだろう?
明らかに緊急事態というような場合は救急車を呼ぶなど対応はわかりやすいかもしれない。問題はグレーゾーンだ。「昨日、風呂場で転んで大きな内出血ができて痛い」とか「今日は特に体調が悪くて吐き気もする」というような、放っておけない状況のお年寄りと対面した場合はどうだろう。実際、こういった事柄は高齢者の生活の中で一定確率でいつも起きる。
会ったときは「大丈夫だ」と言っていたが、半日もしたら状態がひどくなって最悪の事態になるなどということもある。一方で仮にずっとつきっきりでそばにいたとしたら、他の高齢者のサービスが滞ってしまう。
通常はこのような問題が乗り越えられないから、高齢者支援サービスを事業化するのは難しい。そこで8社共同でという発想になったのではないだろうか。
セコム、ドコモ、IBMならそのような事態も回避可能
仮に巡回中に体調がすぐれないお年寄りがいたとしよう。日本郵便だけがサービスを行っているのであれば対応は難しいかもしれないが、出資グループ企業の経営資源を使うといろいろな対応が、しかもそれほどコストをかけずに行うことができるようになる。
具体的には、セコムや綜合警備保障の資源を使うことで、一定時間後に見回りや駆けつけをお願いすることができるだろう。もともとホームセキュリティのサービスのために駆けつけ要員を配置しているから、その隙間時間を使えばそのような家に「半日後に一度、状況を確認に行く」といった対応はできるだろう。それで容態が変わっていたら救急車を呼ぶなどの対応もできるようになる。
またドコモとIBMがパートナーにいるので、遠隔地にいる家族に知らせたり、あらかじめ許可をとってWebカメラのスイッチをオンにして家族が見守れるような状態にするようなITによる解決策も提案できる。
一つではなく、さまざまな対応ができることで、この8社のパートナーシップは生きてくるのである。
次に高齢者ビジネスのトラブルには必ずついてまわる認知力低下の問題を考えてみよう。