はじめに

PBR(株価純資産倍率)にROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)……。株式投資において、投資判断の指標となるものは数多く存在しています。しかし、産業構造の変化に伴い、インターネット産業を中心として、従来の指標では投資先の競争力を的確に推し量ることが難しいケースが増え始めています。

そこで欧米では、インターネット時代の競争力の源泉である“従業員”に着目。企業と従業員の相互理解や相思相愛度合いを示す「従業員エンゲージメント」によって、その企業の成長力を探ろうという動きが広がっています。

そして日本でも、独自のエンゲージメント指標を作る企業が登場しました。どんな方法で算出していて、実際に株式投資に使えるものなのでしょうか。


従業員の期待度と満足度で評価

従業員のモチベーションに特化した人材コンサルティングなどを手掛けるリンクアンドモチベーションは9月18日、企業の「組織状態」を示す新たな非財務指標を公表しました。その名称は「エンゲージメント・レーティング(ER)」。独自指数のエンゲージメントスコア(ES)を基にした格付けランクです。

ESは、「会社基盤」「理念戦略」など社会心理学をベースにした16領域のファクターで4問ずつ質問を設けられており、従業員がそれぞれについて「期待度」と「満足度」を回答。「一致度合い」なども含めて総合的に算出します。


期待度と満足度で従業員のエンゲージメントを可視化

こうして算出されたESを基に、AAAからDDまで11段階にランク付けしたものがERです。調査手法は2018年3月に特許を取得済み。実績データは3,840社、90万人に上るといいます。

これまでも従業員の満足度調査は数多く実施されていますが、ERの特徴は満足度だけでなく、期待度も調査している点。「事業内容によっては、ある要素の期待度を高めることで従業員をまとめていける企業もあります」(リンクアンドモチベーションの麻野耕司取締役)。

1ポイント上昇で利益率が0.35%アップ

満足度だけだと福利厚生の側面が強すぎて、業績との相関性が低くなりがちですが、ERでは企業業績との間に一定の相関性が確認されたそうです。

慶応義塾大学の岩本隆・特任教授らが上場企業66社を対象に実施した調査によると、ESが1ポイント上昇すると営業利益が0.35%上昇。労働生産性もES1ポイントの上昇につき、0.035アップしたといいます。


営業利益率と労働生産性にプラスの影響を確認

「欧米ではエンゲージメントと企業業績の関係性は盛んに研究されていますが、今回の調査によって日本では初めて、エンゲージメントと業績との間に見事な相関が出ました」(岩本特任教授)

現実のビジネスではさまざまな変数があることから、明確な因果関係を示すことが難しいとされていますが、調査を取りまとめた新改敬英・研究員は「サンプル数を増やしたり、個別研究を重ねることで今後、因果関係が明らかになるのではないでしょうか。特にスタートアップや労働集約型企業で有効だと考えています」と見ています。

また、部門・部署ごとにレーティングが出せるのもERの特徴。スコアによって、抜本的な対応が必要なのか、穏便な対応で十分なのか、判断が下せるといいます。

これまでに、クラウドワークスやタビオ、ポーラ・オルビスホールディングスなど、上場企業9社がERを導入・開示意向を示しています。リンクアンドモチベーションでは、これを2025年までに300社まで拡大させたい考えです。

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