はじめに
9月も下旬となり、夜になると、薄着では少し肌寒くもなってきました。ジメジメした猛暑が終わり、カラッと快い季節です。
空気が澄んで、夜空の星がきれいなこの時期の伝統行事といえば、お月見。今年は9月24日が中秋になります。「秋の十五夜」と言ったほうが、もっと親しみある呼び方かもしれません。昔から十五夜のお月見では、ススキを飾り、お団子をお供えして、満月を堪能してきました。
ところで、十五夜に出るお月さま。満月と思っている人も少なくないでしょう。でも、実はちょっと違うのです。今年の場合、24日が十五夜ですが、満月は翌日の25日に見られます。
十五夜は月の周期を基準とした「旧暦」を基準としています。その旧暦では月の周期を1ヵ月としていて、新月をスタートとして、次のスタートの新月までが30日とみなされます。そのちょうど、中間の15日目が満月の日とされています。
しかし、実際の月の周期は29.5日と中途半端なのです。この半端な0.5日分がズレとなり、満月は新月から数えて15日目の十五夜と重ならなくなるのです。
実は、昔から当たり前と思っていることでも実際は別、ということがあったりします。逆に、そんなこと本当か?とされる言い伝えの裏に、ちゃんとした理由が隠れていたりもします。今回は、満月にちなんだ、相場のアノマリーのお話をしましょう。
月の満ち欠けが人間に与える影響
昔から、天体の動きで将来の相場が占われたりしました。金融占星術というものです。「占いで相場の予想か!」とお怒りの方もいるでしょう。しかし今回、取り上げる月ですが、満ち欠けの影響が私たちの身の回りに大きな変化を及ぼすこともあります。
代表例が海水の満ち引きです。東京都港湾局が昨年11月に公表した資料を見ると、満月と新月の時の満潮と干潮の平均の海面の差は1.978メートルでした。
地球は太陽の周りを公転していますし、月は地球の周りを公転します。これらの公転のタイミングで、満月は地球から見て太陽とちょうど反対側に月が来る時です。地球に対して、太陽と月が一直線なので、それらの引力が反対側に海水の方向を引き寄せることから、満潮と干潮の差が大きくなります。
一方、新月は地球と太陽の間にちょうど月が来る時です。この時も、太陽と月の引力の方向が一致するため、満潮と干潮の差が大きくなります。
海面にこれだけ大きな差が生まれるものですから、人間にも影響を与えるといわれても不思議ではないでしょう。人間の体の約60%は水分です。それに血液の流れにも影響を及ぼすという話もあるようです。
このような説は、米国の精神科医、アーノルド・リーバー氏により「バイオタイド(体内潮汐)理論」としてまとめられています。人間の体内に含まれる水分にも、海の潮の満ち引きのようなものがあり、それが満月の日に人々が感傷的になりやすいというものです。
サンプルの取り方の妥当性に議論があるようですが、別の方の研究でも満月の日に犯罪が多いという報告も見られます。
満月や新月の日は株価が動きやすい?
さて、株式市場も人間が売買するものです。投資家が感傷的になりやすい日なら、より株価も神経質になりそうだと考えられます。そこで今回はまず、一般に言われている「月と株価の関係」を紹介して、実際に検証してみましょう。
月と株価の関係では次の2つのアノマリーがよく言われます。
(1)満月や新月は投資家が感傷的になりやすいため、株価が神経質に動き変動が大きい。
(2)満月と新月は相場の転換点となりやすい。
まずは(1)の検証です。満月と新月の日は、大阪市立科学館が1998年からウェブサイトで公表しているデータを使いました。20年間以上のデータとなります。
新月と満月の日に投資家が感傷的となり、いつもより過度に株価が動くのであれば、日経平均株価も上昇、あるいは、下落のどちらかで大きく動くと考えられます。結果は下表です。
満月の日の上昇、下落の変動の平均は1.09%でした。たとえば、足元の日経平均は2万3,000円くらいですから、その1.09%というと250円となります。満月の日には平均すると、250円くらい、日経平均が上がったり下がったりするということです。
これに対して、1998年からの1日の変動の平均は1.07%となり、2万3,000円をかけると246円です。ちょっと微妙な差です。
それでは、特に大きく上昇や下落が起こった日がどのくらいあったかも見てみましょう。4%超の上昇か下落というと、2万3,000円の日経平均に直すと920円です。満月の日のうち、2.40%(満月が100回あれば2.4回)でこの水準を上回る変動が起きました。
これは、満月や新月に限らず、すべての日の1.83%を上回ってはいます。ただ、この差も大きいわけではなく、妥当だと言うには物足りません。
結論としては、満月の日に株価が変動しやすいことは否定できないものの、積極的に肯定できるほどでもなかったといえるでしょう。また、新月の時はまったく傾向が見られませんでした。