はじめに

配当から経営者の心理を読み解く

最後にチェックするのが、配当の有無と配当額です。日本人は定期収入をありがたがる傾向があるので、配当を出している銘柄を重視しがち。しかし、成長企業を見極めるには、違う見方をする必要がある、と古田さんは看破します。

「経営者が本当に会社の将来を考えるのであれば、成長期は配当に資金を回さず、もっと効率的に使おうと考えるはず。配当を出していないということは、経営陣がそれだけ自社の成長可能性を信じていることの証明になります」

とはいえ、日本人には配当が好きな人が多いのも事実。そうした投資家心理をくみ取って、“雀の涙”程度の配当を出している企業がより好感が持てると、古田さんは考えます。この時、配当性向が3割以上の銘柄は排除していくといいます。


付箋の色が変わっているのは「使っていた色の付箋が切れたから。特に意味はありません」と古田さん

これら一連の作業に要する時間は9時間もあれば十分とのこと。こうして割り出した銘柄に付箋を貼っていき、3つの要素を満たすドンピシャ銘柄には「◎」、PERが高くオーナーの保有株比率が5割以上であれば「〇」、どれか1つの要素だけを満たしているギリギリの銘柄には「△」という具合に、3種類の記しを付けていきます。

安易なバフェットのマネは避けるべき

それにしても、古田さんはなぜ、この読み方にたどり着いたのでしょうか。きっかけは、金融機関に就職した大学時代の同級生から、相次いで持ちかけられた相談だったといいます。

「財務の知識はあるはずなのに、自分が良いと思った銘柄が当たらない」「割安株を買っているのに、なぜPER15倍に戻らないのか」「割高株を売り推奨にしているのに、なぜか株価が上がり続ける」……。こうした悩み相談を受けて、古田さんがたどり着いた答えが「数字にだまされてはいけない」というものでした。

PERは株価水準の判断指標として、幅広く使われています。しかし、会社とは人の集合体。数字だけから、簡単に成長性を割り出せるものではありません。誰もがよく知っている指標だからこそ、その数字からどんな物語をつむいでいけるのか、が成長余地のある銘柄を見つけ出すポイントだと解説します。

だからこそ、割安株に投資する安易な「バリュー投資」には否定的なスタンスです。「割安株が理由なく買われるような市場はゆがんでいます。“投資の神様”と呼ばれるウォーレン・バフェット氏も、株価が右肩上がりの米国市場で激安な時期に大量の株を仕込めたから成功しました。長期のボックス相場が続く日本市場では、成長性のある銘柄に分散投資すべきです」。

押さえておきたい注意点は?

もちろん、PERが高ければ高いほど有望、というわけでもないようです。投資対象として適しているPERの上限は150倍程度まで、と古田さんは言います。

また、上場直後はプレミアムがついている状態なので、カバーから外すそうです。最低でも四半期決算を1~2回出した後のほうが安心して買えると話します。さらに株主構成では、上場前からその企業に投資していたベンチャーキャピタルがある程度、保有株を売却したのを確認してから購入したほうが良いとも指摘します。

PERを基準に銘柄を選別するのであれば、スクリーニングソフトを使うと便利そうです。しかし、その方法だとPERがわずかに100倍に届かないけれども有望そうな銘柄が切り捨てられてしまいます。

「紙の四季報を使う利点は、一覧性があることで、思いがけない銘柄との出合いがある点。調べようと思っていた単語以外に新たな発見があるので『国語辞書を使え』と指導する国語教師と同じスタンスです」(古田さん)

割安株を購入したのに、なかなか株価が上がってこないのは、そもそも成長余地がないから、と見ることもできます。そんな時は、古田さんの読み方を参考にしてみるのも一法かもしれません。

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