はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は横田健一氏がお答えします。
海外赴任から帰国後、会社員の夫の手取り収入は半減してしまいました。フリーで働いている私も仕事が激減しています。収入が先細りする中、老後に向けた効果的な資産運用の方法や、理想的なポートフォリオについて教えて下さい。 現在は、資産のおよそ10%をつみたてNISA、AIによるETFの積み立て、外国債券、金現物で保有しています。
〈相談者プロフィール〉
・女性、52歳、既婚(夫:53歳)、子どもなし
・職業:個人事業主
・住居形態:持ち家(戸建て)
・手取りの世帯月収:28万円
・毎月の支出目安:25万円
・総資産:6,200万円
横田: ご相談ありがとうございます。株式会社ウェルスペントのファイナンシャル・プランナー、横田健一です。
今回は老後に向けた資産運用の方法やポートフォリオについてのご相談ですね。まずは資産運用の必要性から確認させていただければと思います。
また、いただいた情報からでは一部不明な点があるため、ここでは「総資産は金融資産のみで、負債はなし」という前提で話を進めさせていただきます。
30年先までの収支をグラフにしてみると……
まず収入が減っているということですが、現在の手取り月収28万円に対して、支出が25万円と、家計としては毎月3万円の黒字にできていることは大事なポイントです。
現在ご相談者様が52歳、ご主人様が53歳ということですので、それぞれ60歳までさらに7~8年お仕事を継続されると仮定します。すると、手取り年収は336万円(=28万円✕12ヵ月)、年間支出は300万円(=25万円✕12ヵ月)ですので、年間収支は36万円の黒字になります。
その後、ご相談者様、ご主人様ともに、65歳から公的年金を受け取ると仮定します。ご相談者様は個人事業主ということで国民年金に加入、ご主人様は会社員ということで国民年金に加えて厚生年金にこれまで加入していたとしますと、ご相談者様の年金額は年額約78万円(平成30年基準)、ご主人様は厚生年金加入ということで年額約140万円(平均月収20万円強と仮定)となります。
これまでの情報を整理して、今後の年間収支をグラフにすると次のようになります。
今後30年間の年間収支を表示しています。ご夫婦ともにお仕事からの収入がなくなってから公的年金を受け取り始めるまでの間は、ご資産を取り崩していくことになり、年間の赤字額は約300万円となります。
積極的に運用していく必要性はある?
しかし、公的年金を受け取り始めると、年間の赤字額は約82万円まで下がりますので、その後の資産の減少はかなりゆるやかになります。これをグラフにすると、次のようになります。
グラフの右端は2048年で、ご相談者様夫婦が82~83歳の時点になりますが、その時点でも約3,500万円のご資産が残っていることになります(このグラフは運用利回り0%と仮定しています)。
このくらい総資産をお持ちであれば、高齢になるほど負担が大きくなるであろう医療費や介護費が多少かかったとしても、家計として問題になる可能性は低いのではないかと思われます。現在の年間収支状況であれば、すでに6,200万円のご資産をお持ちですので、積極的にリスクをとって運用していく必要性はそれほど高くないという印象があります。
しかしながら、今後インフレになることで物価が上昇する可能性もゼロではありませんので、購買力を維持していくために、ご資産の一部を運用にまわしていくのはよい選択肢と言えます。
資産の何割を運用にまわすべき?
今後30年間のシミュレーションから、30年後でも約3,500万円ほどのお金が残ることは確認した通りです。今後、医療・介護などである程度まとまったお金を使うことになったとしても、運用資産を大きく取り崩す必要がない程度、つまり、現在のご資産の4分の1程度である1,500万円はリスク資産で運用しても、今後の生活上問題になる可能性は低いでしょう。
現在すでに資産の10%、約620万円程度を運用中ということですので、さらに900万円程度は上乗せできることになります。
では、具体的に何を選べばいい?
そこで、具体的な運用商品になりますが、基本的には世界の幅広い株式を対象とした投資信託やETFがよいでしょう。
株式は、伝統的にインフレに強い資産と言われており、投資対象である株式会社はビジネスを行うことで、毎年利益を上げていきます。5年、10年、20年と長期的な視点で考えると、この利益が積み上がり、一部は配当として株主に還元され、残りはその企業の将来への投資として使われることで、ビジネスを拡大していくわけです。
このような株式に、手軽に幅広く分散して投資できる投資信託やETFがおすすめです。
投資信託やETFの中でも、インデックス運用を行っているものを選ぶと手数料が安いので、結果的にパフォーマンスが高くなる可能性が高いと考えています。アクティブ運用と言われる、ファンドマネージャーやAIなどが厳選した銘柄を適切なタイミングで売買することでパフォーマンスをあげようとするものもありますが、長期的にどのファンドがよりよいパフォーマンスを実現できるかを事前に選ぶことは難しいため、一般的にはインデックスファンドがよいでしょう。
具体的には、先進国の株式を対象とした先進国株式インデックスファンドや、それに新興国や日本などを加えた全世界株式インデックスファンドなどを対象にしたポートフォリオがよいでしょう。
まとまったお金を投資に振り向けるなら時間分散
現在すでに積立で投資を行われているのでご理解されていると思いますが、今回、追加で900万円近くのお金を新たに投資に割り当てるのであれば、一度に購入するのではなく、購入するタイミングを分散して、少しずつリスク資産に振り向けていくのがよいでしょう。
底値で購入して天井で売却することができればよいのですが、そのようにマーケットのタイミングを見定めるのはプロでも難しいため、3年~5年程度かけて少しずつ投資を行っていきましょう。たとえば、900万円を5年間にわたって投資していくのであれば、年間180万円、月額15万円ずつを積立投資していくことになります。
以上、ポイントをまとめますと以下のようになります。
1. 勤労収入、年金収入を含む今後の収入と支出、年間収支を確認しましょう。
2. その上で、総資産のうち、いくらをどの運用商品にまわすか決めましょう。世界の株式に幅広く投資できるインデックスファンドがおすすめです。
3. 3~5年のある程度の時間をかけて、毎月一定額を積立投資する形で資金を運用商品に振り向けていきましょう。