はじめに

「最高のボリバル」という通貨名

そして2018年8月、ベネズエラは通貨ボリバルにおける二度目のデノミネーションを実施しました。それに伴い、正式通貨名がボリバル・フエルテからボリバル・ソベラノに変わっています。ここからは、この新通貨名で登場したキーワード「ソベラノ」について分析してみましょう。

再び手元のスペイン語辞典でsoberanoを調べると、以下の旨の説明がありました。

「1.主権を有する。2.この上ない。最高の。3.(俗語で)強烈な。とてつもない」

ボリバル・ソベラノのソベラノが1と2のいずれに該当するのか。その判断はちょっと難しいのですが、ここではひとまず「2.最高の」という意味に取ることにしましょう。

その判断に基づくなら、ボリバル・ソベラノは「最高のボリバル」を意味します。つまりボリバルは2008年のデノミで「強いボリバル」に変わり、2018年のデノミで「最高のボリバル」に変わったわけです。

このソベラノの語源を辿っていくと、フエルテと同じようにラテン語にたどり着くことができました。superiusというキーワードがそうです。ラテン語辞典を調べてみると「1.より高く。2.以前に。先に。」という意味を持っていました。

これは要するに「super」のこと。ラテン語でも英語でも「何かの上であること」「何かを超えていること」を意味するキーワードなのです。ボリバル・ソベラノを俗っぽく言い換えるならば「スーパーボリバル」または「超ボリバル」と表現できるかもしれません。

英語のソブリンも仲間

さてスペイン語だけではなく英語にも、ラテン語superiusを語源とする言葉があります。それは「sovereign」(ソブリン)という言葉。手元の英和辞典には、形容詞的な意味として「1.君主に帰属する。2.主権を有する。3.最高の。4.最大限の。5.他より優れている。」などの意味が載っていました。総じてスペイン語のソベラノと似た意味であることが分かります。

金融用語に詳しい人であれば、ソブリンという言葉からいくつかの専門用語を思い出すことでしょう。

代表的な関連用語は「ソブリン債」ではないでしょうか。これは「各国政府が発行、保証している国債」(デジタル大辞泉より)のことです。この他にも政府系投資ファンドを意味する「ソブリンウェルスファンド」、国に対する信用リスクを意味する「ソブリンリスク」、その格付けである「ソブリン格付け」といった専門用語も存在します。いずれもソブリンが「政府」や「政府関連機関」を指す点で共通しますね。

またかつてのイギリスで流通していた金貨も「Sovereign」と呼ばれていました。これを日本語では「ソブリン金貨」とも言います。これは金貨に国王が描かれてたことが由来となった名称。つまり、この場合のSovereignとは「国王(君主)」を意味することになります。

これらから類推する限り、ボリバル・ソベラノにおけるソベラノも、おそらくは「国家」的なニュアンスを含んでいるのでしょう。

もっともベネズエラでは、政府の経済政策・通貨政策に対する国民の信頼が、完全に失墜している状況もあります。フエルテ、ソベラノと続いた改称に続きがあるのかどうか。同国の経済と通貨(さらにはその名称)の行方について、しばらく目の離せない状況が続きそうです。

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