前回の記事では、特別養子縁組の基礎知識についてお話ししましたが、ここからは、鎌田良美さん(現在49歳、仮名、東京都在住)のケースを紹介していきます。共働きで子どもを持たないDINKsを続けてきた鎌田さんは45歳を過ぎたある日、生みの親が育てられない子どもの親になることを決意します。

行き着いたのは、児童相談所を介しての特別養子縁組でした。児相による特別養子縁組の実態はあまり知られていませんが、メリット、デメリットはどんなところにあるのでしょうか?鎌田さんの体験を通じ、2回にわたり考えます。


45歳で初めて経験した、血縁のない子の子育て

鎌田さんは2015年、児相に紹介される形で当時乳児院にいた2歳半の聡くん(仮名)を迎えました。現在6歳になった聡くんは来年小学1年生になります。先日、鎌田さんは、入学を心待ちにする聡くんと一緒にランドセル選びをしたそうです。

聡くんを迎えるまでは仕事と趣味を楽しむことに精一杯で、子どもを持つことは考えていなかったという鎌田さん。あまりなじみのなかった特別養子縁組で子どもを持つことになったきっかけは、夫からの一言だったといいます。鎌田さんはこう振り返ります。

「45歳のときに婦人科系の病気で子宮を全摘出することになって、実子を持てないことが決定的になりました。そのときふと夫が『特別養子縁組をしてみないか?』と言い始めたんです。私も子育てはしてみたいとの思いはあったので、特別養子縁組を考え始めました」

その後、特別養子縁組で親になるための方法を具体的に考え始めた鎌田さん。しかし、その時すでに2人とも45歳を過ぎていたため、民間業者ではなく児相に登録することにしたといいます。

「夫が調べたところ、多くの民間事業者には年齢制限があるようでした。でも東京都の児相は、45歳を過ぎていても登録できることを知りました。『まだ間に合う!』『じゃあ、とにかく相談に行ってみる?』みたいな感じで盛り上がって、児相に詳細を聞きに行くことにしました。でも最初はちょっと怖かったですね。児相での子どもの紹介体験を綴ったサイトもなく、年収など何を聞かれるだろうとか、いろんなことが心配で」と、鎌田さん。

しかし実際に訪れた児相の担当職員の対応は、とても丁寧でした。特別養子縁組の流れが分かり、最初から年収などの詳細を聞かれることもなかったそうです。

「1人の子どもに40家庭が応募」と聞いてショックを受ける

児相で特別養子縁組を希望する場合は、まずは「養子縁組里親」として認定を受け、登録する必要があります。最初の相談から「認定・登録」までの流れは各都道府県によってさまざまですが、東京都の場合は、以下の流れとなっています。

※家庭調査とは、児相の職員が家族全員が家にいる際に訪問し、子どもを迎えるにあたっての心構えや経済状況、部屋の広さなどを聞き取り、確認することです。

鎌田さんの場合、夫とともに初めて児相に相談に行ったのが2014年4月です。その3か月後の同年7月には認定前研修(土日に座学で社会的養護の基礎や児童心理、子育て法などについて学ぶ等の内容)を受けて申請を済ませ、同年12月には養子縁組里親の「認定・登録」が完了しました。そして翌2015年1月から児童相談所から「こういうお子さんがいるのですが、どうですか?」と、声がかかるようになっていきました。しかし鎌田さんは、ここから葛藤や悩み事が増えていくようになったそうです。

「児相から子どもが紹介されるようになったのはいいんですが、児相の方にどのくらいの家庭が候補になっているのかを聞いたんです。そうしたら『この子には、だいたい40家庭くらいが立候補している』と教えてくれたんです。じゃあ40分の1の確率!?ということで、これは紹介されること自体が絶対に無理なんじゃない?という感じを受けたんです。実態を知ったようで、正直ショックでした」

児相が、子どもを紹介する仕組みは、次のようになっています。まず基本的に、児相が紹介するのは、基本的には乳児院や児童養護施設の施設で暮らす赤ちゃんや子どもです。実際の紹介は、児相が管轄地域の施設の中で生みの親から承諾を得て養親に引き渡すことができる子どもが出た場合に行われます。その際、マッチングといって、児相は養親に引き渡す予定の赤ちゃんや子どものニーズに会いそうな夫婦を、養子縁組里親として、その都道府県全域に登録された夫婦から選ぶ作業を行います。

マッチングでは、養子縁組に登録した夫婦に対して、子育てへの考え方、仕事のこと、経済力、部屋など社会的養護が必要な子どものことをきちんと育てられるかという観点も見ていきます。マッチングの内容は非公開のため、詳細を知ることはできません。しかし鎌田さんの場合も、この児相のマッチングによって聡くんに出会うことになったのです。聡くんを初めて紹介されたときの児相からの電話の様子を、鎌田さんはよく覚えているといいます。