はじめに
強い縁を感じた「わが子」との出会い
「登録から4か月後のことでした。『紹介したい男の子がいます。鎌田さんが第3候補ですが、それでも手を挙げますか?』という電話でした。これまでは『40倍』と聞いていたので、それに比べると、すいぶん希望があるように思いました。とはいえ私たちの前に、あと2組いる。難しいかもしれない……と思いながらも、手を挙げることにしました」
児相から連絡がくるまで、水天宮に行ってはお守りなどを買って「子どもが来ますように」と祈り続けていたという鎌田さん。「鎌田さんが選ばれました」と晴れて児相から連絡を受けたのは、最初の電話を受けて1か月ほど経った5月のことだったといいます。1・2番の候補を飛ばして選ばれたと聞いたときには、子どもとの縁というものを強く感じたと鎌田さんはいいます。
間もなく、児童相談所の職員、児童心理の職員がアルバム持参で自宅を訪れ、迎える子どもの詳細を説明してくれたそうです。
「この子がうちの子になるんだと思うと、改めて感慨深かったですね。聡という名前、発達状況、どんな経緯で乳児院に来ることになったのかの事情もよく分かりました。すごく詳細に子どものことを聞かせてくださった後、『この子を迎えますか?』と真剣な表情で聞かれました。この時点で断る理由はありませんので当然『はい』と答えました」
その後、子どもが暮らす乳児院を訪れ、初めて聡くんに会うことができました。4か月ほど乳児院に通いながら一緒に遊ぶなどの交流を続け、12月からちょっとずつ自宅に滞在するようになりました。そして翌2016年1月から長期に滞在するようになると同時に正式に委託が決定。同時並行で進めていた家庭裁判所の審判も2017年3月に無事確定し、聡くんは名実ともに鎌田家の「長男」となりました。
児相にスピーディーに子どもを紹介してもらうために
登録から子どもが決まるまでに約5か月かかった鎌田さんの体験を客観的にみれば、比較的スムーズに子どもを紹介してもらえたケースといえそうです。何が決め手だったのでしょうか。鎌田さんはこう振り返ります。
「申請のとき、児相の方から『お子さんの希望はありますか?』と聞かれたのを記憶しています。男女、年齢、病気や障がいがあっても受けるかどうかなどについてでした。女の子は育てやすくて人気だということは聞いたこともあったのですが、私たちは男女どちらでもいいと伝えました。年齢もある程度大きくてもいいし、病気や障がいに関しても、ちょっとくらい発達に遅れがあっても迎える覚悟があることを伝えました。どんな子でも受け入れると条件を提示しておけば早めに紹介してもらえるとは聞いていましたが、その通りだったのかもしれません」
一方、鎌田さんのケースとは違い、養子縁組里親の登録後にもかかわらず、長く子どもが紹介されなかったり、委託に結びつかないことは、関係者の間で“塩漬け”という言葉で問題視されています。“塩漬け”が発生する背景には、いくつかの理由があります。
一つには、児童相談所の特別養子縁組は、公的な安心感があったり、民間事業者に比べると無料で子どもを紹介してもらえることもあって、子どもが欲しい夫婦には一定の人気があることです。また家裁の審判がおりるまでは子どもの養育費が支給されることなどもメリットととらえる夫婦はいます。
二つ目は、家庭復帰が考えられないような赤ちゃんや子どもがいたとしても、児相に特別養子縁組のノウハウが少ないことなどもあって生みの親の同意が得られず、特別養子縁組に出せる子どもの数自体が少ないということです。
三つ目は、子どものニーズと、登録夫婦の希望条件がマッチしないという点です。例えば、0歳児、女の子は育てやすいとの印象から、「欲しい」と希望する夫婦が殺到します。しかしそこにこだわり続けていると、子どもの背景やニーズとマッチせず、結果的になかなか子どもが紹介されない事態に陥ります。
希望する夫婦がスピーディーに子どもの紹介を望む場合は、「子どもの条件にこだわりすぎない」「発達面の遅れがあっても受け入れる」などの覚悟をする必要があることが、鎌田さんのケースからは学ぶことができます。つまり希望や理想にこだわらずに「どんな子でも受け入れる」という覚悟を持つことが、特別養子縁組で親になるための最初の一歩であるともいえるのです。