はじめに

売り切りでも大きく稼げるマリオのポテンシャル

さて、Google子会社のナイアンティックが開発し大成功した『ポケモンGO』に続き、いよいよ任天堂が満を持して投入したスマホゲームが『スーパーマリオラン』だ。

まずはiPhone向けなどApple端末で利用できるゲームが、日本では1,200円で購入(第3ステージまでは無料ダウンロードで遊べる)できるようになった。ビジネスモデルとして画期的なのは、課金がこのときの1回だけということだ。

競合他社がひとりのユーザーから数万円稼ぐようなビジネスモデルに依存しているのに対して、この課金モデルでやっていけるのかと心配だが、任天堂サイドでは課金額が安い代わりに全世界で1億ダウンロードを狙っているらしい。

確かにマリオにはそれだけのポテンシャルはあると思うし、実際に有料課金で1億ダウンロードが達成できれば売上は単純計算で1200億円になる。開発費が数億円かかるとしても、それほど宣伝が不要なマリオのゲームだから売上の大半は利益ということになるだろう。

実際、『ポケモンGO』が6億ダウンロードを達成したことを考えると、スーパーマリオランの1億ダウンロードは夢物語とは言えない期待感もあるわけだ。

「高い」と言われ続けたゲームの価格

今回の1,200円という価格設定だが、私から見ると別の意味で興味を引く価格設定だと思っている。この価格、ゲーム業界としてみれば30年来の価格破壊なのだ。

1983年にファミリーコンピュータで発売されたマリオブラザーズのゲームソフト価格は3,800円。この水準がその後、ゲームカセットの標準的な価格水準となった。

そしてこのゲームソフトの価格は、当時の子どもたちの親からは「オモチャなのに高い」と批判を受けることになった。なにしろ当時、ボードゲームなどのオモチャの価格は1,200円ぐらいなもので、ファミコンの本体やソフトの価格はオモチャとしては抜きんでて高かったのだ。

ゲームソフトの価格が高いのには2つの理由があった。ひとつはファミコン本体の価格は原価すれすれで利益が出ないように設定してあり、任天堂はソフトの販売で儲けを回収するビジネスモデルをとっていたこと。そしてもうひとつは、サードパーティが出すソフトでも任天堂が大きなロイヤリティを手にするように設計されていたことだ。

実は1,200円の価格は歴史的な揺り戻しだ!

ナムコやスクウェアなどサードパーティがファミコンソフトを発売する際に、単純に任天堂にロイヤリティを払うだけではなく、ゲームカセットの生産委託も任天堂にしなければならないし、審査も任天堂に委託する必要があった。

また、一般のサードパーティ会社の場合、流通も任天堂を通すことになる。4,000円で販売するソフトの場合、任天堂の取り分が5割くらいを占めるというのがファミコンのビジネスモデルだった。

つまり本当は、ゲームは2,000円ぐらいで売ってもいいものだったのだが、任天堂が利益を吸い上げるために、どの会社もゲームソフトを4,000円の水準で売ることになったわけだ。このビジネスモデルこそが、任天堂を世界有数の時価総額の企業へと押し上げた原動力だったのだ。

時代を振り返ると皮肉なものである。当時は親たちから「テレビゲームは高価すぎる」と批判されていた任天堂が、現在は「今のスマホゲームの課金制度は子ども相手には適用すべきではない」と批判するようになり、実際にそのようにマリオの価格設定をしたわけだ。ガチャで課金をしないことが故・岩田社長の実質的な遺言ということだろう。

とはいえ、さすがのマリオでもダウンロード価格が4,000円では1億ダウンロード達成は難しい。そこで任天堂はゲームをダウンロードする消費者にとっての適正価格を探ったことになる。

その結論が1,200円だったというのが今回、一番興味深い点ではないのか。やっぱりゲームの適正価格というのはその程度の水準であるべきだったのだ。30年来の議論は、このような皮肉な形で結論が出たと私は捉えている。

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