はじめに

厚生労働省が、10月を「がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーン月間」「乳がん月間」と定めていることをご存知でしょうか。

現在、2人に1人が生涯でがんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなっていると言われています。国は、がん対策として、主として「がん検診の受診率の向上」と「75歳未満のがんの年齢調整死亡率(※1)の減少」という2つの目標を立てています。特に、国民に向けては、がん検診の必要性の周知に力を入れています。

WHO(世界保健機関)の「がん対策:知識を行動へ 効果的なプログラムのためのWHOガイド」によれば、およそ4割のがんは予防方法が知られており、がんの約3分の1は、早期発見や効果的な治療方法が知られているそうです。

そこで、今回は、がん検診の現状について取り上げたいと思います。

※1「年齢調整死亡率」とは、高齢化の影響等により年齢構成が異なる集団の間で死亡率を比較したり、同じ集団の死亡率の年次推移を見るため、集団全体の死亡率を基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で算出した死亡率のことです。


目標の50%まで、女性はあと10ポイントの上昇が必要

2016年の死亡数が多い部位は、男性は順に「肺」「胃」「大腸(結腸、直腸。以下同じ)」「肝臓」「すい臓」、女性は「大腸」「肺」「すい臓」「胃」「乳房」となっています。国では、このうち、これまでの研究によって、検診で発見ができ、治療で死亡率の低下が見込める臓器として「肺」「胃」「大腸」「乳房」「子宮頸部」の検診を推奨しています。集団の死亡率を下げることを目的としており、「対策型検診」と言われます。

検診受診率の目標を、2016年の調査までに「乳房」「子宮頸部」の過去2年間の受診率が50%、「肺」「胃」「大腸」の過去1年間の受診率が当面40%(最終的には50%)と設定しており、無料クーポンの配布や普及啓発活動を行ってきました(※2)。

その成果もあって、検診の受診率は、2016年に男性は、「肺」は50%をクリア、「胃」と「大腸」は50%まであと5ポイントにまで上昇しました。しかし、女性の受診率も上昇しているものの、最も高い「乳房」で45%(過去2年間)、「子宮(子宮頸部)」と「肺」が42%、「大腸」「胃」は、残念ながら40%にも届きませんでした。欧米では、乳房や子宮頸部の検診受診率が7~8割程度ですので、諸外国と比べても低いと言えます。


(資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」各年

※2対象年齢は、「肺」「胃」「大腸」「乳房」は40~69歳、「子宮頸部」は20~69歳です。

女性が敬遠する理由

女性の検診受診率が男性と比べて低い理由として、がん検診は会社で推奨されて受ける人が多い中、女性は男性と比べて会社勤めが少ないことや、時間の融通がつけやすい人が多く、子どもや夫の生活を優先し、自分自身のことを後回しにしがちであること等があげられます。また、特に「乳房」「子宮(子宮頸部)」「大腸」について、女性の方が検査自体を躊躇する傾向があります。

推奨されるがん検診

現在、新しい技術を使って、様々ながん検診があります。そのうち、既存文献等から有効性が確認できている検診について、国では推奨をしています。


(資料)厚生労働省「がん検診」サイト参照

この検査以外に、国全体における年齢調整死亡率への有効性は確認できていないものの、個人の治療の効果やQOL(生活の質)の向上を見込める検査もあります(任意型検診)。人間ドックなどによるもので、基本的に全額自己負担となりますが、勤務先や自治体から補助が出るものもあります。唾液や尿、便を、自分で検査センターに送るタイプの検査もあり、医療機関での検査よりも受けやすいと感じる人がいるかもしれません。

さらに、がん発見の新しい技術が開発されています。例えば、国立がん研究センターで臨床研究がはじまった血液1滴から13種のがんを発見する技術は、2018年度までの予定で臨床研究が進められています。まだ研究段階の技術でも、今後、充分な有効性が確認されれば、国からの推奨メニューに追加されるかもしれません。

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