はじめに

「経営陣を信用できない」東芝株主の弱み

増資に際して、最後は既存の投資家を切り捨てる判断をしなければならないかもしれない。状況を考えると、今回の増資はかなりぎりぎりの条件交渉の中で行われるでしょう。

そう考えると、「とにかく逃げるしかない」という判断は東芝株を持っている投資家の取った行動として、ある意味正しいことだと思います。

さて、たとえ債務超過だったとしても資本増強を行い、東芝が利益を稼ぐのであれば条件はよくなります。東芝の株価がシャープを下回ったのは、資本増強した後のシャープが、きちんと利益を稼ぐ企業に生まれ変わりそうだと期待され株価が上がったことがひとつの背景でしょう。

では、東芝の場合はどうなるのでしょうか?東芝の主力事業は半導体と原子力です。つまり今回、赤字を発生させた原子力事業が将来的にどうなっていくかに、今後の東芝の企業価値がかかっているわけです。

東芝の未来はどうなるのか?

今回、減損が発生した理由は、買収したCB&Iウェブスターが海外で受注した工事のコストが想定を上回ったことだと発表されています。

確かに3.11以降、原発の建設コストは安全意識の高まりにより高騰しています。海外の工事案件は2兆円規模にもなりますので、そこで発生した想定外のコスト増が数千億円だったということは数字の規模感としてはわかります。

あくまでひとつの(ないしは複数の)契約の中での見積もりミス、契約時に想定していなかったコスト増項目が発見されたということであれば、数千億円の損失は一時的なものだと判断できるかもしれません。

そうなると、東芝の未来を占う最大のポイントは、原子力部門がきちんと稼いでいけるかどうかにあるでしょう。

東芝の原子力部門は、新規の原子力発電所の開発を軸に収益を上げるモデルで動いています。実際に今回買収した企業も原発の建設を手掛けるエンジニアリング会社でした。

世界を見渡すと、原子力発電所の新規開発のペースは大幅に落ちています。例外は中国ですが、今後の動きは不確定でしょう。そのような環境下で、原発を開発する会社を買収したという点において、そもそも、東芝経営陣の判断は間違っていたのかもしれません。

一昔前の話になりますが、スリーマイル島の事故が起きた直後の米ゼネラル・エレクトリック社の原子力事業部門トップは、まだ若かったころのジャック・ウェルチでした。彼は事故直後に事業計画を大幅に書き換えたことで知られています。

ウェルチは、「これから先、新規の原子力発電所開発が一切無くなるという前提で、既存の原発へのサービスだけで十分な利益が上がる体質に生まれ変わること」を掲げたと言われています。

東芝の経営陣は数字の発表は得意ですが、具体的なビジョンを持った事業の対話は実に苦手です。その意味において、このような状況の企業への投資に、素人は手を出さないほうがいいのかもしれません。

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