はじめに
「インバウンド」という言葉が広く一般的に使われるようになったのは2015年ごろでしょうか。ちょうどこの年は、日本を訪れる外国人旅行者(インバウンド)の数が45年ぶりに海外旅行をする日本人(アウトバウンド)の数を上回りました。また、中国人旅行者の豪快な買い物が注目を集めて、「爆買い」という言葉は新語・流行語大賞を受賞しました。
さすがに「爆買い」は一時的なブームに終わりましたが、その後もインバウンドは順調に増加が続いています。
観光庁が6月に発表した「平成30年版観光白書」によると、昨年は2,869万人の外国人観光客が日本を訪れ、約4兆円の旅行消費だけでなく、帰国後のインターネットを通じた日本商品の買い物(越境EC)で6,000億~8,000億円程度、さらには宿泊業者の建築投資約1兆円など、多大な経済効果を日本にもたらしています。
第2次安倍政権がデフレ脱却に向けて取り組んだ経済政策「アベノミクス」は、それなりの効果を生み出しましたが、その間に観光がGDP(国内総生産)に占める割合をはるかに上回る規模の貢献をしており、日本経済成長の主要エンジンへと変化しつつあります。
地方にも波及するインバウンド効果
インバウンドが新たな日本経済の主要エンジンに育ちつつある中で注目すべきは、インバウンドが明らかに日本の地方経済の活性化に貢献している点でしょう。
日本を訪れる外国人旅行者の訪問先は、東京や大阪といった大都市圏から全国各地へと裾野を広げ、地場産業の衰退や人口流出に伴う経済の縮小に苦しんでいた地方を活性化させる存在にもなりつつあります。
そして、かつては“商都”と称されて経済面で東京と競いながら、近年では当地で創業した有力企業が相次いで本社機能を東京に移転するなど、経済面での地盤沈下が著しかった大阪も、インバウンドによって大いに経済が刺激されています。
関西国際空港で就航するLCC(格安航空会社)が、中国をはじめとする東アジア圏から多くの旅行者を呼び、京都や奈良で日本の伝統建築や文化を楽しみ、大阪で泊まって買い物をする、という外国人が大きく増えました。
観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、昨年の外国人旅行客の都道府県別訪問率はトップが東京都、大阪府が第2位、韓国と香港からの旅行者における訪問率は東京を抜いて大阪府が第1位になっています。
東京約92兆円、大阪約37兆円というGDPの規模を考えると、インバウンドが大阪経済に与えるインパクトは東京よりもはるかに大きいと見てよいでしょう。
関西企業の業績にも大きな影響
今年は台風21号の影響で関西空港が一時閉鎖され、関西のインバウンドは一時的に大きく落ち込みました。しかし、関西空港も想定より早くほぼ復旧しており、これからも増え続けるインバウンドが関西経済を下支えることになりそうです。
そうなれば、もちろん関西を地盤とする企業の業績にもインバウンドは大きな影響を及ぼします。
新たな大阪名所になった「あべのハルカス」が集客に貢献している近鉄百貨店(証券コード:8244)、関西マダム御用達の阪急百貨店などを展開するエイチ・ツー・オー リテイリング(8242)では、中国など大勢の富裕層が口コミで評判を聞きつけてショッピングを楽しみます。
関西圏を地盤とするドラッグストアのキリン堂ホールディングス(3194)は、インバウンドをしっかり取り込んで業績を伸ばしています。ロート製薬(4527)はインバウンドに人気の定番商品を多く抱えていますが、中国のEC販路を強化して帰国後の継続的な購入を促す施策が奏功しているようです。
インバウンドが不動産市況も刺激
意外なところで注目しておきたいのが、関西を地盤とする不動産企業です。
観光庁によると、2017年の宿泊施設稼働率で大阪府は82.4%と全国トップ(2位は東京都の80.0%)で、宿泊施設タイプ別ではリゾートホテル92.4%、ビジネスホテル84.8%、シティホテル88.7%と、いずれも全国トップでホテルの稼働率が非常に高くなっています。
つまり、ホテルが不足気味なのです。こうした事情から、目下の大阪はホテルの建設ラッシュ。私が勤務している北浜のオフィスから徒歩1分圏内でも4つのホテルが建設中です。
ホテル需要が刺激剤になって大阪の不動産市況も活況を呈しているようで、地元企業ならではの情報力や物件調達力に強みを発揮して、サムティ(3244)やプレサンスコーポレーション(3254)の業績は好調で過去最高益の更新が続いています。
両社ともホテルを手掛けていますが、あくまで主力はマンション販売です。業績絶好調にもかかわらず、本社が大阪というだけで株価は割安水準に放置されており、予想PER(株価収益率)はサムティが7倍台、プレサンスにいたっては5倍を切るような水準(いずれも10月末)です。
インバウンド需要を取り込みながら中期的な利益成長が期待できる関西企業に注目してみると、投資先を選ぶ際の視野も広がるかもしれません。