はじめに

みなさんは「ベンチャーバンク」という企業をご存じでしょうか? 「まんが喫茶ゲラゲラ」、ホットヨガスタジオ「LAVA」、日本初のインドアサイクル専門スタジオ「FEELCYCLE」など、多くの事業を成功させてきた“インキュベーション・カンパニー”ですが、その事業規模と比較して、名前が大きく表に出ることは必ずしも多くない“非上場企業”です。

ベンチャーバンク流 成功する新規事業の作り方

2016年10月、同社は4つの事業を新会社として独立させましたが、子会社化するのではなく、いわば兄弟企業として並列の関係になるという発表を行い、世の経営者を驚かせました。ホールディングス化により企業としての規模拡大を目指すのではなく、同社はなぜ、分社化という道を選択したのか。そのメリットはいったいどこにあるのか。同社の創業者で、代表取締役会長 の鷲見貴彦氏に話を訊きました。


分社化のメリット

――ベンチャーバンクは「まんが喫茶ゲラゲラ」、「LAVA」、「FEELCYCLE」など多くの事業を成功させていますが、それぞれの事業を独立させ、子会社化/ホールディングス化するのではなく、「分社化」を推進しています。近著『i人経営』(日経BP)でもそのことを宣言されているように、事業を生み出した本体であるベンチャーバンクと、独立した4社が「並列の関係になる」という、非常に珍しい仕組みです。周囲の経営者からは「なぜ子会社化しないのか」と驚かれたそうですが、どんな理由があったのでしょうか。

確かに、経営者からすると「生み出した事業が他の人の手に渡る」……というのは、おそらくもっとも嫌なことです。しかしそのエゴを取り去って考えたときに、分社化がベストだと思い至りました。つまり、社内の一事業であったり、あるいは親会社の下にとどめるより、新会社として独立性を高めたほうが、事業を飛躍的に成長、発展させられることができると考えたのです。皆が「幸せ」になるためにはどうすればいいか、ということを本気で追求した結果として行き着いた発想ですね。

――分社化には、具体的にどんなメリットがありますか。

子会社としてぶら下がり続ければ、親会社や関連会社との関係により制約が生じるケースがあります。例えば、ある事業が収益化した場合に、その利益を親会社やホールディングスの新規事業に投資する……というサイクルが生まれる。しかし分社化すれば、そのサイクルから抜け出し、自分たちの成長と拡大のために投資することができるようになります。また、「親会社と競合する部分があるから」などといった制約もなく、本当に理にかなった相手との協業も可能になるでしょう。

――ベンチャーバンク本体にも、メリットはあるのでしょうか。

当社にとってのメリットとして、「インキュベーション・カンパニー」としての役割がより明確化される、ということがあります。つまり、新事業を次々と生みだし、“巣立つ”ときまで育てる、ということに専念できる。売り上げの拡大だけを考えれば、軌道に乗った事業を手放すことなどできませんが、ベンチャーバンクが求める価値は、「どれだけ新規事業の成功例を生みだしていけるか」なのです。

また、分社により世の中に新しい社長を生みだしていく、ということにも価値を感じています。10月の分社化で新会社が4つ誕生しましたが、いずれも社長は、それぞれの事業部のトップを務めていた社員で、うち3人は40歳前後。一般的な企業では、社員として会社に入った人が社長になるのは非常に難しい。そのなかで、自分で好きな事業を立ち上げ、若くして社長になれる道を仕組み化したのが、今回の分社化だと言えます。会社全体にとっても、従業員にとっても、何も悪いことはないでしょう。

――本ではホールディングス化することのデメリットにも言及しています。

実は、ホールディングス的な複合大企業が、健全に長い期間を生きながらえるというケースは、非常に少ないんです。私が一番の問題だと考えるのは、結局はホールディングカンパニーによるトップダウンの構造となり、事業の現場やお客さまのことを知らない人が決定権を有してしまうこと。もちろん、ホールディングス化してもしっかりした理念を持ち、すばらしい経営をしている企業もありますが、創業者一族が持ち株会社のトップになり、私情――私利私欲が入り込んで、組織がいびつになってしまっている大企業も少なくないのです。そうして現場のスタッフたちがやる気をなくしてしまうことが、ホールディングス化の最大の弊害だと考えています。

[PR]NISAやiDeCoの次は何やる?お金の専門家が教える、今実践すべきマネー対策をご紹介