未来を予想することはそもそも難しいのですが、為替市場を見通すことは一筋縄ではいきません。また、通貨は2国間の相対的な力関係でレートが決定されるため、絶対的な価値基準がありません。つまり、割高、割安の判断を主観的なものに頼らざるを得ないことも為替の予想を難しくしています。

今回は、この難しい為替相場を見通すには何を見ればよいのか、現状の市場動向を踏まえながらご説明します。


ドル円相場予測には日米金利差を見ればよい?

このところ、ドル円相場と日米金利差の連動性が高まっているようです。両者の関係は、「日米金利差が拡大すればドル高、縮小すればドル安」というのが一般的です。ただ、いつもこの関係が成立するかといえば、必ずしもそうではありません。

ドル円相場の値動きに影響を与えるのは金利だけではなく、株式や国際商品などが為替相場を動かすケースが多々あります。また、金利や株式、国際商品といった変数同士が互いに影響を及ぼし合うこともあるだけに、どれか1つだけを注視すればよいということもありません。

では、現在はどうなっているのか見てみましょう。ドル円相場と日米金利差の連動性が高いことは相関係数を見ればわかります(下図)。現状、相関係数が1に近づいており、正の相関がかなり強いといえます。逆に、米国株や原油との相関係数はゼロ近傍となっており、連動性が薄れていることが示されています。

結局、これまで説明してきた部分と矛盾するようですが、足元では日米金利差だけを見ていればドル円相場の動きがイメージできます。ですがこれは、あくまでも“現時点”という注釈が必要です。今年でいえば、年初から春頃にかけて日米金利差とドル円相場が逆相関となりました。この期間、日米金利差の拡大と反する形で円高ドル安が進みました。

この背景としては、主に2つの要因が考えられます。1つは日本銀行の早期金融政策正常化観測の台頭したことです。見た目の上では日米金利差が拡大しても、思惑先行で円を買い進めた向きがいたようです。もう1つは、財務省の不祥事を受けて安倍内閣の危機が取り沙汰されたことです。これがリスク回避の円買いを誘いました。当然ながら、日米金利差とドル円が逆相関になるのは珍しいケースで、やはり順相関が本来の姿なのでしょう。

今後の日米金利はどう動くのか

ここしばらく日銀の金融政策正常化観測はすっかり沈静化しており、日米金利差を決定するのは米国の動向次第であることが明確になっています。米連邦準備制度理事会(FRB)は緩やかな利上げを続ける意向を示しており、来年に向けて特に短期債を中心に日米金利差がさらに拡大するのが基本シナリオです。一義的には当然、円安ドル高を支援すると考えられます。

しかし、金利以外の変数である株式や国際商品がFRBの金融政策に影響を及ぼす可能性も、ゼロではないでしょう。また、ドル高が続くことで米経済が変調をきたし、利上げシナリオに狂いが生じることも十分ありえます。結局、日米金利差とドル円の連動性が高いことはわかっていても、金融市場は複雑に絡み合っているだけに、さまざまな方面への目配せが必要となります。

忘れてはならない「実需の資金フロー」

では、金利や株式、国際商品の動き以外からドル円相場を予想するには、どうしたらよいのでしょうか。それは、為替本来の機能、「実需取引」のフローを見ることです。実際、金利などの動きより、実需の資金フローからドル円相場を予想するほうが容易かもしれません。

投機の場合は、基本的に売りと買いがワンセットで取引完結であり、中長期的に均して見れば、市場に与える影響は「中立」といえます。要するに、売ったものはいずれ買い戻し、買ったものはいずれ売却するため、資金フローは「往って来い」となります。

それに対して、たとえば貿易に絡む実需取引の場合、本邦輸出企業は円買い、輸入企業は円売りと、資金フローはおおむね片道です。どちらかに偏った時、市場への影響は中立とはいえません。貿易や資本取引が為替市場全体の中に占める割合は投機に比べるとかなり低いといわれていますが、その存在感は大きいものがあります。

日本に当てはめると、最近の貿易収支悪化や多額の海外企業買収など、実需の資金フローは円売り方向に傾斜しているもようです。これに加え、ドルの下値では日本の機関投資家の海外証券投資に絡むドル買いが控えていると見られ、ドル安方向に振れるには実需の壁が厚いといえます。

今後の“実需”に影響するもの

ただし、原油価格の動向は今後の波乱要因となりえます。当然、金利や株式に影響を及ぼす可能性を考えざるを得ませんが、それ以上に実需の資金フローへの影響が気になります。日本の貿易収支は原油をはじめとする国際商品価格に左右されやすい傾向がうかがえ、足元の収支悪化は原油価格上昇が大きな役割を果たしているとみられます。

原油先物と日本の貿易収支の推移を見ると、1年程度遅行して原油価格と連動していることが確認できます(下図)。

仮に原油価格の下落トレンドが続けば、この先、日本の貿易収支が改善基調に回帰することが想定されます。そうなれば当然ながら、実需の資金フローは円買い方向へ傾斜することになるでしょう。今すぐというよりは、来年以降のドル円相場を予想するうえで、考慮する必要がありそうです。

(文:大和証券 投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄)