はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は花輪陽子氏がお答えします。
結婚して1年半。そろそろ子供がほしいと思っています。夫は私より2つ年下で、収入もわずかですが私の方が高いです。そんな中で私が育休に入ったら生活できるのか不安です。そして、育休後に復帰しても、しばらくはフルタイムで働くのは厳しいと思っているので、その分収入も減ると思います。貯金も少なく、余裕がないのですが、将来のために終身の生命保険にも加入しました。夫婦共に奨学金の返済も残っていて、普通の家庭よりも家計が厳しいと思います。いろいろ考えると、今子供ができたら生活できるのか心配です。子供はもう少し貯金が貯まってからの方がいいのでしょうか。
〈相談者プロフィール〉
・女性、30歳、既婚、子供なし
・職業:会社員
・居住形態:賃貸
・手取りの世帯月収:43万円
夫:20万円
妻:23万円
・毎月の支出目安:35万円
・貯金:200万円
・負債(住宅ローンなど):なし
花輪: 子供ができると収入が減り、支出が増えるので一般に生活は今よりキツくなります。
1.5人分の収入で2.5人分の生活費を賄う
会社員の場合、育休中に育児休業給付金がもらえますが、それでも収入は育休前の半分程度に減ります(2014年4月1日以降に開始する育休からは、育休開始から180日目までは育休前の賃金の67%の支給。181日目からは50%)。
つまり、育休中は、夫婦2人分あった収入が1.5人分になり、その1.5人分の収入で3人分(子供が小さい頃は半分とカウントし2.5人分程度)の生活費を賄う必要があるのです。家計収支が激変するので注意が必要です。
それを軽減させる方法としては、早期職場復帰が考えられます。
海外では早期職場復帰が当たり前?
私が住んでいるシンガポールでは、国を挙げて、女性が働くことを強く促す制度設計になっています。
産休、育休の16週間分は有給、もしくは会社や政府からお金を受け取ることができます。人によっては半年から1年といった長期休暇をとる人もいますが、そもそも長期育休向けの給付がほとんどないので、育休期間が長期化すると、収入が途絶える上に子供にお金がかかるため、生活が厳しくなります。
さらに、日本の公的年金のような仕組みがあり、毎月の積み立ては雇用主との折半となっています。自らの分は自動天引きになっているため、働かないとその分積み立てられないので、将来もらえるお金も少なくなります。その結果、自ずと早期復帰を選択するようになるのです。
それに対して日本では、産休に加えて育休があり、最長で子供が2歳まで給付を受けられるようになりました(2017年10月から)。また、産休・育休中の社会保険料も免除になります。
母子のことを考えると、日本の制度は手厚くてよさそうに見えます。しかし、キャリアの面から考えると、早期復帰したほうがスムーズに仕事に戻ることができます。
出産後の働き方が生涯賃金に差をつける
「国民生活白書」によれば、大卒女性が仕事を中断することなく、38年間働き続けた場合の生涯賃金は退職金込みで約2億7700万円だそうです。育児休業を2年間取得して36年間働く場合、失うお金は約1900万円と比較的少なく済み、生涯賃金は約2億5800万円となります。
一方、出産後退職をして8年間のブランクを経て再就職する場合、正社員として復帰するケースの生涯賃金は約1億7700万円、パートとして復帰するケースの生涯賃金は約4900万円になります。結婚後は専業主婦という場合の生涯賃金は約2200万円と、ずっと働き続ける場合と比べると2億5000万円ものお金を失うことになります。(平成17年版 国民生活白書、第3章「子育てにかかる費用と時間」より。28歳で第1子出産、31歳で第2子出産と仮定)
生涯賃金という視点から考えると、できる限りキャリアにブランクを空けず、正社員として復帰をすることが大切だということが分かります。妊娠中に体調が優れず、やむを得ずに退職をすることになった場合も、できるだけ早期に正社員として復帰するほうが生涯賃金は多くなります。
希望する子供の人数によっては早くから計画を立てた方がよさそうですが、できるだけ早く職場復帰をするなどで収入が少なくなる期間を短くするなどの工夫が必要です。