ここ数か月、世界的には、米中貿易戦争の行方が最大の注目材料となっていますが、そのなかで新たな不安定要素になりそうなのが英国の動向です。

世界経済におけるウェイトという面からみると、米国や中国に比べて小さいものの、英国の影響度も見過ごせません。今回は、英国の現状と今後の先行きに加えて、EUの現状、先行きなどについて考えてみたいと思います。


綱渡りが続く英国メイ首相

英国では、2016年6月に国民投票が実施され、EU離脱派が勝利しました。しかし直近は、英国国内の閣僚の間で不協和音が高まっています。

今年7月にデービスEU離脱担当相やジョンソン外相が、メイ首相との意見の対立から辞任し、そのデービス氏の後任としてEU離脱担当相に就任していたラープ氏も、11月15日に辞任を表明しました。同時に、ラープ氏の補佐役であるブレイバーマンEU離脱担当閣外相やマクベイ雇用・年金相など主要閣僚も相次いで辞任しています。特に、ラープ氏は、辞任したデービス氏に代わって7月に就任してからまだ数か月しか経過しておらず、メイ政権は異常事態に陥っていると推測されます。

閣僚の辞任が相次いでいることが示している通り、離脱派のなかでも強硬離脱派と秩序ある離脱を求める穏健派はお互い相容れない状況です。メイ首相は対EUとの話し合いだけでなく、国内の反対派との折衝に振り回され、さらには閣内で人材流出が続くなか、近くメイ首相の党首不信任手続きが実施されるのではないか、との観測も浮上している状況です。

そのようななか、対EUとの交渉に関しては、11月に入って事態が動き始めています。11月14日には、メイ首相は英国のEU離脱を巡る離脱協定草案を閣議決定しました。また、この決定を受けて、11月19日には英国を除くEU加盟27カ国が担当閣僚による臨時会合を開き、英国との離脱協定案を巡って本格的な再交渉に応じない方針が示されましたが、その後11月25日にEUの緊急首脳会議が開催され、英国のEU離脱案が正式決定しました。

交渉決裂のまま合意なしのままで離脱に向かう、という最悪の事態は回避されたとはいえ、英国議会での承認が得られるかどうかについては不透明な部分が多く、離脱の最終期限とされている2019年3月29日まで、難しい交渉が続けられることになりそうです。

世界的には長期化している米中貿易戦争のほうが注目されていますが、英国のEU離脱問題に関しても、当面の世界の不安定材料になりそうです。

財政赤字問題が深刻なイタリア

また、英国と同様に、EU離脱問題が注目されているのがイタリアです。イタリアでは2018年3月に総選挙が行なわれ、反EUの政権が誕生しました。ただ、英国とイタリアでは経済状況が全く異なっており、近年はイタリアに関してはEU離脱問題以上に、財政赤字問題がクローズアップされています。

実際、2018年9月末にイタリア政府が発表した当面の財政赤字目標によると、2019~2021年の財政赤字目標は対GDP比で各年ともに2.4%と、EU基準の2.0%、政府目標の1.6%を大きく上回りました。

債務比率の上昇からイタリア国債の格下げも検討されており、当面財政不安は払しょくされそうにありません。イタリアの存在もEUにとって頭の痛い問題といえるでしょう。

雲行き怪しいECBの金融政策

このたび10月29日に、ドイツのメルケル首相が突然の辞意表明を行ないました。EUにとって、ドイツはEU最大の国で、そのドイツの政局が流動的になることは不透明材料といえます。

折りしも、欧州中央銀行(ECB)はこれまで実施してきた資産買い取り(金融緩和の意味を持つ)政策を2018年12月末で終了する、と宣言しており、2019年後半辺りから利上げする可能性がある、と表明しています。

ECBがこの計画を発表した時点では、実際に欧州経済が回復に向かっていましたが、現在の景気は明らかに鈍化しています。直近は、英国、イタリア、ドイツなどの問題が複雑化しているうえ、米中貿易戦争などをきっかけに世界的に景気先行き不安につながっており、EU経済は当面、先行き不透明感な状況が続くと予想されます。

(文:アイザワ証券 市場情報部 アジア情報課長 明松真一郎 写真:ロイター/アフロ)