はじめに

11月6日、米国では中間選挙が実施されました。トランプ大統領の就任後2年間の政権運営に対する国民からの評価という位置づけとして、また、結果次第で世界にも大きな波紋を呼ぶ可能性があるため注目されていましたが、ほぼ予想通りの結果となりました。

実は同じ11月に、もう一つ注目の中間選挙がありました。11月24日に台湾で実施された統一地方選挙です。この選挙結果が今、台湾を大きく揺るがしています。


政権交代の機運が強まってきた

今回の台湾統一地方選挙は、2020年に行われる次期台湾総統選の前哨戦として、また現政権への中間評価の意味合いもあり、注目を集めていました。結果はすでに報道されているように、与党の民進党が大敗を喫し、党主席を兼務していた蔡英文総統は責任を取る形で党主辞任を発表しました。

今回の選挙で民進党は、約20年間市長ポストを維持してきた南部の高雄市や強固な地盤である台中市、人口密集地の新北市と台北市など主要都市で敗北し、22の首長ポストのうち、かろうじて6つのポストを維持するにとどまりました。

一方、最大野党の国民党は今回15の首長ポストを獲得し、大きく躍進しました。今からちょうど4年前の2014年には、馬英九総統(当時)が率いる与党の国民党が中台融和を図る政策を次々と打ち出され、中国の政治や経済へ過度に傾斜したことで、国民の間で不満が高まり、統一地方選挙で歴史的惨敗を喫し、2016年の総統選で独立志向が強い民進党に8年ぶりに政権交代を許した経緯がありました。

この度の与党民進党の大敗を受けて、2020年の総統選に向けて、政権交代の機運が強まってきたと言えます。

低迷する「ハイテク・アイランド」

民進党が敗北した背景としては、2016年蔡政権発足後、景気低迷が続いていたことで国民の不満が高まっていたことが挙げられます。足元の台湾経済は景況感が悪化しており、直近、台湾行政院主計総処が10月31日に発表した2018年7~9月期の実質GDP成長率(速報値)では、前年同期比+2.28%と4~6月期の+3.3%から減速し、5四半期ぶりに3%台を割り込みました。

米中貿易摩擦が長期化するなか、GDPの約7割を占める輸出の不振や民間消費の伸び鈍化などがGDPを押し下げています。なかでも、景気低迷を象徴しているのが大手企業の不振です。

シャープの親会社で、iPhoneの組み立てなどを行っている鴻海精密工業は10万人規模の人員削減と、来年200億元(約3250億円)規模のコストカットを計画していると報じられました。世界のスマートフォン市場減速の動きが「ハイテク・アイランド」として不動の地位を築いてきた台湾に影響を与えており、景気の重石となっています。

景況感の悪化に加えて、蔡政権就任当時に出された若者の給与水準引き上げや、低所得者向けの住宅整備、バイオや自然エネルギー関連の産業振興による雇用創出といった政策も、現段階では目立った成果が出ていません。このことも政権の支持率の低迷に繋がったと考えられます。

米中の間で揺れる台湾アイデンティティ

また、中台関係の悪化も支持率低下の一要因となっています。「台湾アイデンティティ」を強調する与党民進党に対して、中国は両岸対話を拒否し、台湾と外交関係があったパナマやエルサルバドルなど5ヵ国と国交を樹立するなど、台湾への圧力を強めています。蔡政権は国内、国外ともに問題山積みで、惨敗は当然の結果と言えるでしょう。

台湾の人々が望んでいるのは中台関係の平和的な発展とそれに伴う地域経済の向上と生活の改善です。今回の選挙は独立志向が強い現政権への不満が現れた形となったと言えます。2020年の総統選で与党の座を守るためには、対中政策を中心に、様々な分野での調整など大幅な政策転換が必要となってくると言われています。

しかし、中国に歩み寄れば、米トランプ政権と新たな軋轢を生む可能性があり、台湾国民にも依然として中国に対する警戒感が根強く残っていることから、しばらく政権運営のかじ取りが難しいと思われます。

選挙結果を受け、株式市場の反応は?

この選挙結果を受け、台湾の株式市場はどのように反応したのでしょうか。統一地方選挙後、台湾株式市場では選挙結果を好感し、ハイテクや観光関連銘柄を中心に反発しました。しかし、安全保障やハイテク技術を巡る覇権争いを背景とする米中貿易摩擦の終息がまだ見えず、積極的な買い持ち高を増やすには至っていないようです。

さらに今、台湾の株式市場にとって無視できない事件が起こっています。“ファーウェイ問題”です。

ハイテク覇権争いの新たな火種

12月6日の報道によると、中国の情報通信機器大手「華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)」の副会長兼最高財務責任者(CFO)孟晩舟(もうばんしゅう)氏が、米国からの要請を受けたカナダ司法当局に逮捕されました。

12月1日に米中首脳会談で対中関税の引き上げを猶予し交渉を開始するなど「一時休戦」を合意したばかりで、雪解けの兆しが出始めていた米中間の貿易摩擦は再び悪化する可能性が出てきました。

米大手調査会社IHS によると、ファーウェイの世界通信設備市場における市場シェアは28%と、首位を誇っています。同社は高性能な米国製半導体を多数採用しており、米国からの制裁で半導体の調達ができなくなると、関連業務の停止を余儀なくされます。

ファーウェイ自体は非上場企業ですが、今後の成行き次第では、米国企業の半導体受託製造などを行う台湾のサプライヤー各社にとっても大きなマイナス要因となります。台湾株式市場の波乱要因となる可能性に注意が必要です。

台湾は国内の政治面で不透明感が強まっているほか、経済面でも米中貿易摩擦の影響などから厳しい状況に陥っており、株式市場は当面不安定な状況を余儀なくされそうです。

(文:アイザワ証券 市場情報部 アジア情報課 姚莉  写真:ロイター/アフロ)

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